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アットホーム・ラブライフ
踏んでいたのは誰の影

「稜也は私の、三番目の兄に似ているよ」


夕食時。今日の夕食当番は俺で、桐はその配膳を手伝ってくれていた。

そんな時の、ふとした他愛もない雑談。俺は味噌汁の味加減を確かめながら、お椀を差し出してくれたルームメイトを振り向く。


「ふぅん…、どんな風に?」


彼女の二番目のお兄さん、それから五番目のお兄さんには会った事があるけれど、他のお兄さんたちについては紹介された事もないし、良く知らない。

聞いているのは長兄は実家を継いでいて、四男はちょくちょく桐宛てに荷物(主に服やアクセサリー類)を送ってくるという話くらいだ。…こう考えてみると、三番目のお兄さんの話が話題に上るのは初めてか。

味噌汁の味が足りなかったと、味噌を追加で溶かしながら、俺は桐を窺う。


「柳(やなぎ)兄は優しくて面倒見が良いタイプでね、私が一番慕っている兄なのだよ。…稜也を見てルームメイトと決めた理由の一つも、柳兄に雰囲気が似ていたからだよ」
「あ、そうなの?」


桐が俺を初対面でルームメイトと認めたキッカケ、というのは初耳だった為、俺はきょとりと瞬いて彼女を見やった。


「そうだよ。柳兄は紳士的で嫌みの無い好人物だからね、柳兄のような人なら一緒に生活するのも苦にはならないだろうと」
「ふぅん。…今でもその評価は変わってないのか?」
「基本的にはね。…稜也は紳士的で面倒見が良くて優しくて、素晴らしいルームメイトだっただろう?」
「……ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ」


どうやら俺は、ルームメイトから最大の評価を頂いていたらしい。

それは嬉しいのだけど、紳士的…ね。その信頼度は嬉しくもあるが、ある意味では枷だ。

複雑な心持ちで俺は味噌汁をお椀に装い、桐は二人分のそれをテーブルに運ぶ。

続けて栗ご飯を茶碗に装って、今度は俺が自分でテーブルに運んで行った。

今日の夕飯は、秋刀魚の塩焼きと水菜と大根のサラダ、茄子の煮浸し。小さい頃両親が共働きだったお陰で、俺の料理スキルはそれなりだ。


「…いただきます」
「いただきます」


箸を取って、二人で両手と声を揃える。実家は道場だという彼女は、こういう決まり事はきっちり守るタイプだ。

秋刀魚の身を箸で器用に解しながら、桐はクスリと笑う。


「…しかし、稜也と柳兄は似ているけれど、けれどやっぱり全然違うね」


確かに、俺と彼女のお兄さんが別人なのは当たり前。けれど桐の言葉にはそれだけではない含みがあって、俺は首を傾げた。


「…柳兄は、料理は壊滅的に駄目な人なのだよ。こんな風に美味しい夕飯を作ってくれるなんて、稜也でないなら有り得ない」
「……そっか」
「稜也は、良い旦那さんになるだろうね」
「え…」


クスクスと笑って今日の夕飯を示した桐に、俺は何て応えるべきか分からずに眼を見張った。

…その台詞は喜んでいいのか、嘆くべきなのか。



踏んでいたのは誰の影

(君が大好きなお兄さんより上だと、思ってもいい訳?)














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献立から分かるように、秋頃の二人。稜也は家庭料理全般が得意ですw

桐が最も信頼するのが、三番目の兄の柳。よく相談にも乗ってくれて、他の兄が感情的になり易いのに対しいつも穏やかで優しいお兄ちゃん。でも料理はてんで駄目です(笑)

桐が稜也に心を許したキッカケは柳を彷彿とさせる気質だったからですが、今ではそれ以上に意識する相手ですw

一方、桐がどこまで考えてやっているか分からず悶々とする稜也(笑) 青春ですねww ←


11/7/28


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