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書きかけ放置文まとめ
たまには温かい時間も

いい夫婦の日





「星那」


普段は割と感情を載せない事が多い伴侶の、心なしか弾んだ声。

誰しもが息を呑む程美しい造作の上に無邪気な笑みを載せ、何やら言いたげにしている空瀬の様子に、ベッドの上に寝転んで雑誌を読んでいた星那は思わず微妙な顔をした。

伴侶がこんな表情をして愉しげに星那を呼ぶ時、それは本人は楽しい事だと思っているらしいが端から見れば案外碌でもない事を考えている時なのだと、星那は彼とのまだそう長くはない結婚生活の中で既に嫌という程学んでいた。

星那はとりあえず流し見していた雑誌を閉じ、ため息を吐きたいのを堪えて空瀬に視線を向ける。


「…何、空瀬」
「あのね、今日は『良い夫婦の日』なのだって」


……ほらな。

とても愉しげに報告してきた空瀬にそんな事を思いながら、星那はちらりとカレンダーを見上げた。

11月22日、の語呂合わせで『良い夫婦の日』。星那も耳にした事くらいはある。日本人の好きな、ありがちな言葉遊びだ。

さて、いかにも「わくわく」といった様子の伴侶は、それにかこつけて一体何を言ってくるつもりなのか。


「…自分の伴侶は、星那だよね」
「あぁ。それで、俺の伴侶は空瀬だ」


それは、わざわざ確認せずとも揺るぎのない事。

きっかけは雑な出来事だったが、星那はこの伴侶を気に入っているし、心の底から愛していると言ってもいい。そして、自分が空瀬から大切にされているし、愛されているという自覚もある。

こうして考えると、自分たちは充分『良い夫婦』なのではないだろうか。口に出すのは気恥ずかしいので、黙っておくが。


「うん、自分と星那は夫婦だよね」
「あぁ」
「…うん、それならやって欲しい事があるんだ」
「…何?」


満面の笑みで言ってくる伴侶の願いを、内容を聞く前からなんだかんだと言いながらも受け入れようとしてしまうのはやっぱり、惚れた弱味なのか。

側に寄って来た空瀬が、そっと手にしていた物を差し出してきた。

細い竹の棒に白いふわふわとしたぼんぼりの付いた、この見慣れたフォルムは。


「……耳掻き?」
「うん。…こういうの、やってみたいんだ」


言った空瀬は、部屋に転がっていた漫画を捲る。
開かれたページには、膝枕で相手に耳掻きをしてもらうという、恋人同士のほのぼのとした姿。

駄目かな?、と妙にしおらしく訊いてくる蜂蜜色の瞳に、星那は思わずクスリと笑った。

なんともまぁ、可愛らしい伴侶の『お願い』だ。


「もちろんいいよ、これくらい。…ほらおいで、空瀬」


空瀬の手から耳掻きを受け取って、正座を崩したように座った腿の上に伴侶を呼ぶ。

パッと笑みを浮かべた、自分より一回り以上は体格の良い相手を“可愛い”と思うのもきっと、伴侶への惚れた欲目だ。



「……空瀬」
「ん…?」
「気持ちいい?」
「…うん」
「……空瀬」
「ん?」
「…好きだよ」
「……、誘ってる?」
「…さあ、どうだろう」















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いい夫婦の日でうつせな。

たまには暗転じゃないほのぼのとした話を……、って思ったらオチで何故か暗転フラグが(笑) やっぱ人外夫婦に暗転は逃れられないオチなのかしら?ww

耳掻きの白いほわほわした部分は梵天って言うんでしたっけ? ご大層な名前ですよねww


12/11/22

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