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書きかけ放置文まとめ
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(バレてないならそっちの方がいいけど、近くにいるといつかボロを出しそうで怖い……)


夜の街で出逢って、交流を深め、いつしか好きになっていた、彼。

会わなければ、忘れられると思った。もう会わないで、忘れてしまおうと、思った。

けれど実際には氷芽は会わなかった半年間ですら彼を忘れられなかったし、こうして顔を合わせてあの頃のようなやり取りを交わしていては、忘れられる筈もない。

顔を合わせ言葉を交わす度、感情が引きずられ軋みをあげるのが分かる。

表情を変えず、口の中の肉を噛み締める氷芽に対し、治臣の態度は飄々としたものだ。

戯れのように氷芽に対して軽口を叩き、戯れのように軽く手を伸ばす。

あの頃隣に居た、レジーナの“れ”の字も出さずに。


(……もしかしたら、向こうはもう、忘れてるのかもな)


ふと、そんな風に思う。

そうだ、自分勝手に言葉を捨て置いて、自分勝手に姿を消した相手の事など、忘れていた方が自然だ。

だから、氷芽を見たってレジーナな事など思い出さない。忘れているから。もう、過去の存在だから。


(……あ、どうしよう)


そんな風に思ったら、堪らなく悲しくて、切なくて、口惜しくて。

氷芽の方ばかり彼を忘れられなくて、彼の言動一つにどぎまぎして、胸を締め付けられているのだとしたら、なんと愚かなのだろう。

そんなの、とんだ道化だ。


「……藍川?」


少し、驚いたような治臣の声に顔を上げると、視界が急激に滲んだ。

ぼろりと、両の眼から大粒の涙が溢れ出し、氷芽は慌てて眼鏡の下の目元に手を当てた。


「っ、ちが、あの、目にゴミが入って……」


言い訳を口にしながら、氷芽は治臣の視線から逃れるように身を捩って眼鏡の下を擦った。

目にゴミが入るにしろ、いきなり両目はないだろうとも思ったが、他に言い訳のしようもない。

いきなり人前で涙腺が決壊するだなんて失態にも程があるが、一度流れてしまった涙をそう簡単には止められない自分の性質は、氷芽自身が一番理解していた。

ごしごしと目を擦る氷芽の耳に、椅子から立ち上がる物音が届く。ハッとして顔を上げると、目の前に立つ治臣の姿。


「あ……」
「あんまり擦るな、目が腫れるぞ」


目を擦っても氷芽が頑なに外さずにいた眼鏡は、あっさりと治臣に奪われ、机の上に置かれる。

氷芽の黒珠の瞳を覗き込むように、彼の澄んだアイスブルーの瞳が近付く。

その距離の余りの近さに、胸が苦しい程に息が詰まった。


12/9/15

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あきゅろす。
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