[通常モード] [URL送信]

書きかけ放置文まとめ
ep.3

カイザー――治臣を避ける事は、思いの外簡単だ。


(…そんな風に思ってた時期が、俺にもありました)


「…よう、藍川。一人か?」
「……、こんにちは」


(会長サマが、何でこんなトコロにいる――!?)


放課後。自分を置いてバスケ部の助っ人に行ってしまった蛍を追う事なく、人の居ない図書室の片隅でネタ出しをしていた氷芽は、突然現れた治臣に表情を強ばらせた。

彼の姿が見えた瞬間、次のイベント用の新刊の構成を考えていたノートを慌てて閉じたのは言うまでもない。

先日の邂逅からというものの、昼休みや放課後、氷芽が一人になったタイミングでの治臣との遭遇率が格段に上がっている。

これで蛍や他の役員たちが居る時には現れないのだから、一人の時を狙われていると思うのは気のせいではない筈だ。

元より働きの良くない表情筋を強ばらせている氷芽に構う事なく、それが当たり前であるかのように治臣は机の向かいに座る。

今すぐに逃げ出したいところだが、そういう訳にもいかず、氷芽は視線を手元に落とした。

目を合わせようとしない氷芽に、治臣はあの頃と同じ響きで笑う。


「図書館で勉強か?」
「えぇ……まぁ」


実際には新刊用のネタを練っていただけだが、そう答える訳にもいかずその問いには曖昧に頷いた。

ネタノートをゆっくりとさり気なく手元に引き寄せ、相手の顔を直視しないように視線を揺らす。


「……、会長さんは、図書館に何をしに?」
「本でも読もうかと思ってな」
「そうですか」


そう言う割には、彼の手には本など一冊も無い訳だが。

もし彼が本を取りに行くなら、その隙に逃げられるだろうかと視線をさまよわせるが、その様子を治臣に笑われてしまう。


「本を読むよりも、お前の顔を眺めてる方が楽しそうだな」
「…、それは、どういう意味ですか」
「見てるだけで楽しめる、美人な顔だと褒めてるんだよ」
「……お世辞として受け取っておきます」


其方こそ、如何にも俺様会長に相応しい見惚れる程男前な顔をしておいて。

さらっと口説くような台詞をいう男とは目を合わせず、氷芽は努めて冷淡な口調で返す。


「……つれないな、相変わらず」
「会長さんは相変わらず、暇みたいですね」


あの頃と同じように言って肩をすくめる治臣に、敬語での皮肉を返す事にも慣れてきてしまった。

以前に似た関係を築くのは良くないと思いながらも、以前と同じような軽口を叩けるのが嬉しい、だなんて。

同じようなやり取りを繰り返す度、彼は自分がレジーナである事に気付いているのではないかと懸念するが、未だ彼の口からはレジーナの“れ”の字も出ていない。やはり、気付かれてはいないのだろうか。


12/9/7

≪  ≫

17/28ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!