書きかけ放置文まとめ
節分ロール
「……空瀬、念の為言っておくけど、恵方巻きっていうのはロールケーキの事じゃないぞ」
「えっ」
何やら学園の外に外出してきたらしい空瀬が「節分らしいから、買ってきたよ」と白いボール紙の箱を持ってきて見せた時から、また何か間違っているんじゃないかとは思っていたが、嬉々とした様子で箱から取り出したものは案の定、だ。
星那が呆れ気味に指摘すると驚いたような表情をした空瀬は、伴侶と、自分の買ってきた『恵方巻き』とを見比べて首を傾げる。
「…じゃあ、これは何?」
「ロールケーキだろ? 苺の」
英語ではスイスロールと呼ぶそうである。二人分にしては少し大きいだろう、中に苺が巻き込まれたケーキを前に、星那はため息を吐いた。
「恵方巻きっていうのは、海苔巻きの寿司の事だ。酢飯と具を海苔で巻いたヤツを丸ごと一本、その年の恵方を向いて食べるっていう」
「巻いてあるなら何でもいいのかな、って思った」
「いやいや……」
なんだ、その大味な理屈は。少なくとも、このサイズのロールケーキをまるかぶりにするのは無理があるだろう。半分に割ったとしても多分無理だ。
空瀬は色々な季節のイベント事を楽しもうとするのはいいのだが、毎回微妙な勘違いをしてくる。2月はおそらくバレンタインを要求してくるのだろうと思っていたから、節分の事は星那も気にしていなかった。とんだ誤算である。
「まぁ、ケーキは美味そうではあるから、切り分けて食べるか?」
「恵方は?」
「いや、無理だろ…。……一応今年の恵方はあっちだから、あっちを向いて食べるか?」
切り分けて、皿に盛ったものではあるが。そう訊ねると空瀬は素直に頷いた為、星那はロールケーキをキッチンに持って行って包丁で半分程に切り分けた。一回で食べきるには大き過ぎる為、半分を冷蔵庫にしまい、もう半分を更に半分に切り分け四分の一のサイズにして皿に盛った。
リビングでうずうずとしている空瀬にもう少し待てと声をかけ、お湯を沸かしてお茶を淹れる。空瀬の好きなローズティーだ。我ながら出来た伴侶ではないだろうか、と星那は小さく息を吐いた。
お茶とケーキを載せたトレイを持ってリビングに戻ると、空瀬は恵方だと教えた方角を向いてカーペットの上で正座をしていた。
でかい図体を小さく折りたたんだその姿に、星那はクスリと笑う。
「ケーキ持ってきたよ、空瀬」
「早く食べよう。恵方巻き」
だから、恵方巻きではないって。そう言って否定するのも野暮かと思い、小さく微笑んで空瀬の隣に腰を下ろした。
カーペットの上に正座して、二人並んでロールケーキを食べた。そんな、節分の日。
(ところで空瀬、節分だけど豆撒きは?)
(……豆?)
(…豆撒きは知らないのか。寧ろ、何で恵方巻きだけ知ってたんだ)
(星那、豆撒きって?)
(豆を撒きながら、「鬼は外、福は内」って言って……)
(なにそれ、面白そう!)
(……)
翌日、空瀬はもやしを買ってきました。
(撒けないだろ!!)
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節分空瀬さん。今回も何か色々勘違いしてる(笑)
恵方巻きスイーツってのもあるそうですね。ちょっと、本来の趣旨とはかけ離れてますよね(笑)
14/2/4〜3/5(拍手掲載)
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