俺様会長と無関心
2
「高雅に何か用事なのか?」
「…用事…? 用事、必要?」
未来がそう訊くと、逆に都がきょとんとして首を傾げた。
言葉少なな都の返事に未来は瞳を瞬かせたが、高雅の部屋に行くのに用事が必要か、と都は言っているのだろう。
混じり気の無い漆黒の視線を受け、未来は頬を掻く。
「えっ、うーん…? 用事、ってか遊びに行くの?」
「遊び? …、うん、多分そう…かな?」
「だったら必要ないんじゃね? 友達の部屋に遊びに行くのに、用事は要らないしな!」
「…そうか」
基本フレンドリー思考の未来は、そう結論付ける。
その返答に都の無表情が微かに緩んだのが嬉しくなり、未来は都の細い肩をバシバシと叩く。
「高雅の部屋に行くんだろ? 生徒会だから、別棟だぜ!」
「…そうなのか?」
「…って、俺の方が新参者の筈なのに、都ってばまったくさぁ…。しょうがないな、案内してやるよ!」
「ん」
思えばこの学園の校風を未来に教えてくれたのは、このルームメイトではなく、生徒会の役員やクラスの友人たちだ。都の口からは、学園事情のがの字も出て来た事がない。
都の日頃の言動から鑑みるに、彼はその多くを本気で知らないのではないだろうか。…未来の見解は、大当たりだ。
寮の渡り廊下を通り役員用の別棟へと歩きながら、未来はとりとめのない雑談を一方的に話し続ける。…都がそれをどこまで聞いているのかは、謎だ。
「…でさ、あのホスト教師ったら横暴だぜっ!?」
「………」
「──…未来か? お前、部屋の中まで声が聞こえてるぞ、お喋りはいいけど、もっとトーン落とせ…」
「…ぁ、高雅」
「都?」
地声の大きい未来の一方的な話し声は、都ではなく役員棟の室内に届いていたらしい。
ガチャッと付近のドアが開いて顔を覗かせたのは、眉間に皺を寄せた赤髪の男前。件の生徒会会長、一宮高雅だ。
「おっ、高雅じゃん! 都がお前のトコ遊びに行きたいって言ってたから、連れて来たんだぜ!」
「…だからもう少し小声で話しても聞こえるっての。……じゃなくて、都、お前から来るなんて珍しいな」
「ん」
相変わらずテンションの高い未来の隣でぼんやりと彼の話を聞き流していた都は、高雅の姿が見えると微かに表情を綻ばせとことこと彼に歩み寄った。
ぽん、と自然に都の頭を撫でる高雅に、それに抗わずふんわりと頬を珊瑚色に染める都。
そんな二人の親密な空気に初めて気付いた未来は、きょとんとした顔で彼らを見つめた。
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