蜂蜜砂糖 log
serenata
耳に入り込んできた旋律に、御門はふと目を開ける。
無意識に傍らにある筈の温もりを手繰り、その不在に気付いて顔を上げる。
「…?」
寝室に置かれたグランドピアノ、月明かりに薄く浮かび上がる朧な影。
静かながらどこか甘い、繊細な旋律。
「孝雪…?」
「…あぁ、起きたんだ」
呼び掛けた声は、微かに掠れ。
振り返った彼の笑みを目に止め、御門は顔をしかめる。
「…何、やってんだよ」
「見て分からない? ピアノを弾いてたんだけど」
「こんな時間に…。いくらなんでも迷惑だろ」
今が何時かは、正確には分からないけれど、確実に深夜と言って良い時間ではあるだろう。
孝雪の奏でる音は綺麗だとは言え、流石にこんな時間では安眠妨害にならないか。
寝ぼけ眼の御門がそう言えば、孝雪は飄々と笑った。
「大丈夫、この部屋防音だから。近所迷惑にはならないよ」
「あっそ…。…てか、俺に対して迷惑だけど」
「大丈夫大丈夫」
「………」
さり気なく訴えた不満は、あっさりと無視された。文句を言う元気もない御門は、小さくため息をついてベッドに沈む。
そんな御門を見てクスリと笑った孝雪は、また鍵盤に指を滑らせた。
流れ出す旋律。ベッドで躰を起こした御門は、枕を抱えてそれに聴き入る。
「…それ、オリジナル?」
「よく気付いたね」
「聞いた事ないヤツだったから…」
不器用な優しさと微かな甘さを孕むその旋律は、捻くれ曲がった孝雪の奥の奥、御門が引きずり出した本質そのもの。
あまりにも“彼らしい”旋律だったから、とまでは気恥ずかしくて言えないが。
枕を抱えた御門を軽く振り向き、けれど鍵盤を弾く指は止めないまま孝雪が口を開く。
「…『serenata』」
「え?」
「タイトル。…夜の窓辺で恋人に捧げる、小夜曲」
「え…」
さらりと紡がれる言葉に、御門が目を丸くする。
そんな彼のリアクションを横目に見つつ、微笑む孝雪は追い討ちを掛けた。
「だから、そのままそこで聴いてて」
「は…」
薄い月明かりの元では、その顔がどれだけ朱に染まったのかは分からない。けれど、今日はそれでもいい。
真夜中。二人きりのピアノリサイタルを、ただ君に捧げる
孝雪×御門、お付き合い後のお話。この二人はラブラブになっても普段は口喧嘩の応酬だといいw
孝雪は音楽関係に造詣が深い人。寝室にグランドピアノが置いてあります。…うん、白だったらいいね(爆)
真夜中に二人きりで静かにイチャイチャしてる、って構図が基本的に大好きです(笑)
【蜂蜜砂糖 そのなな】 09/8/5
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