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蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんの朝 A

俺は八雲さんの背を押して(真っ直ぐに伸びた、程よく筋肉のついた綺麗な背中だ)、洗面所へ送り出す。顔を洗ったら、目も醒めるだろ。

その間にトースターに放り込んでおいたトーストが焼けたから、バターを塗ってイチゴジャムも塗る。八雲さんの好みは把握しているので、それに合わせて。

ジャムトーストを皿に載せたら、洗面所から八雲さんの声。


「…綺、僕のシャツ何処かな?」
「クローゼットに入ってません? じゃなきゃ、しまう前のが洗濯機の横にありますよー」
「…あぁ、そっか」


ぼんやりとした声はまだ寝惚けいるようにも感じられるけど、俺の知る限りではこれがデフォルト。

ゆったりした口調で喋る人だから、不良って感じが全くしないんだよなぁ…。アレでドスの効いた声とか出せるんだろうか? 想像出来ない。


「八雲さん、今日コーヒーでいい? それとも紅茶にする?」
「…ココア」
「…分かった」


…変化球で来たな。ココアなんてあっただろうか? なかったら、今からチョコレートを溶かせと?

やや不安になりつつ戸棚を開けると、無事外国製っぽい缶を発見出来た。…えーと、フランス製? よく分からんけどお高そうだな。

俺が砂糖と一緒に粉を溶かしていれば、洗面所から八雲さんが戻ってきた。

シャツのボタンは全開、という大変セクシーな状態だ。…確かに今日は暑いけど、クーラーも付いてるんだしさ。


「…せめていくつかはボタン閉めなよ」
「閉めて?」
「あー、はいはい」


マグカップをテーブルに置いて、我が儘なご主人様に駆け寄る。

俺と八雲さんはそれなりに身長差があるから、シャツのボタンもかなり閉めやすい感じだ。…まぁ、上二つくらいは開いててもいいか、と残りのボタンを閉めていく。

それにしても、綺麗な肌だこと。男のそれとは思えない、白さとキメの細かさだ。


「…八雲さんてさ、ホント全国の女性の皆さんに喧嘩売ってるよね」
「…僕、女性には喧嘩売らないよ?」
「男には売るんだ」
「いや、売らない。売られたら買うけどね」


さりげなく物騒な事を言って、八雲さんは食卓に座った。俺も後を追って向かいに座る。


「…いただきます」
「自慢出来るようなものではありませんが、どうぞ」


食事の際は、キチンと挨拶を。行儀良く両手を合わせる八雲さんに、小さく笑う。


「…美味しい?」


目玉焼きを口に運ぶ八雲さんに、ココアを飲みながら訊いた。

八雲さんは此方を見て柔らかく笑う。


「…美味しいよ」
「そりゃ良かった」


…うん、やっぱりこうやって美味しそうに食べて貰えるのが、作り手にとっては一番だ。目玉焼きなんて料理の内に入らないかもしれないけどな。

そのまま食事を続けて、八雲さんが食べ終わったら手早く食器を片付ける。

そろそろ、学校に行く時間だ。

居候したての頃に八雲さんに買って貰ったお弁当箱を取って来て、一つを八雲さんに渡す。


「学校行くにしろ行かないにしろ、お昼になったらこれ食べて下さいね」
「うん、ありがとう」
「…じゃ、俺は学校行ってきますので」


彼に背を向けて出ていこうとすると、不意に腕を取られて引っ張り込まれる。


「わわっ」
「…いってらっしゃい、綺」


抱き寄せられた腕の中、ちゅ、と額に軽い感触。相変わらず、スキンシップがよく分からない人だ。

…まぁ、別に嫌じゃないからいいんだけどね。


「…いってきます、八雲さん」


知ってた? 八雲さん。『いってらっしゃい』ってね、必ず同じ場所に帰ってきなさいって事なんだよ。そう言ったからには、『おかえりなさい』が対なんだ。

…毎日毎日、繰り返される言葉は輪廻。貴方のものである限り、俺は此処に帰ってくる。

玄関口まで見送ってくれた八雲さんに微笑んで、俺は眩しい陽射しを見上げた。



いつもの、朝のこと












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メルマガオリジシリーズです。不良×平凡だと言い張る、変な二人の同居話(笑)


八雲は綺の前では全く不良らしからぬ雰囲気の人、綺は八雲が不良だって知ってるけど特に気にしてない子。二人とも変な性格です(笑)

無自覚に新婚夫婦っぽい彼らのお話を、オムニバスっぽくポツポツ配信していきますので、これからもまったりお付き合い頂けると嬉しいです。多分、18禁もありです(笑)


【蜂蜜砂糖 そのご】 09/7/1

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あきゅろす。
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