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蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんの朝 @

…俺の朝は、超絶美形のアップから始まる。


「……………。いつの間に帰って来たんだろ、八雲(やくも)さん」


昨日、このだだっ広いキングサイズのベッドに潜り込んだ時は一人だった筈なんだけどな。

寝起きの声で呟きつつ、ぼんやりとその美貌を見つめる。

脱色して真っ白になった髪に、幾筋か入った水色のメッシュ。閉じられた瞳を縁取る睫毛は女性が皆羨むくらいに長く、その他パーツ一つ一つも十二分整っているが、黄金比と言うまでに配置されたそれらがその容姿全体を更に美しいものとしている。

…何故だか俺を抱き枕にして眠るこの人の名前は、宗柳(そうりゅう)八雲。高校二年…らしい、見えないけど。
この家の屋主で、俺の……なんだろうな、飼い主兼雇い主みたいなモンか?

…申し遅れまして、俺は新島綺(にいじま あや)。色々深いようで浅い事情があって八雲さん家に居候する、極普通の高校一年生だ。


「…八雲さーん、おはよー」
「…んー…」
「やーくーもーさーん! ……と、駄目だコリャ、起きねぇ」


呼び掛けてもさっぱり起きない事から、帰って来たのは実は朝方なんじゃないかと判断。

別に今彼を起こさなくたって時間的に余裕があったので、絡み付く腕だけを剥がして起き上がった。
朝食を作る為、キッチンへ向かう。

…高層マンションの最上階、ワンフロアが一部屋となった広い上に豪華な部屋。7LDKだっけか。

こんな部屋に一人暮らししていたとはホント、どんだけセレブなんだよ、八雲さん。しかも家事は全く出来ないし。やっぱブルジョワだよ。

俺はこの家で家政婦みたいな事をやっているけど、八雲さんの家の事情とかはほとんど知らない。彼にそれを訊いた事はないし、彼も話すつもりはなさそうだ。

彼について知っているのは、どんなに暑くても人を抱き締めて寝たがるとか、放任主義のくせ変なトコだけ過保護だとか、朝食の目玉焼きは醤油派であるとか、そんな些細な事。
あとは、この辺りで『最凶』とか称される不良である、って事くらいだ。そんなんに全然見えないけど。

そんな事をつらつら考えつつ、俺は半熟の目玉焼きを皿に移した。適当にレタスを千切り、付け合わせのサラダにする。


「…おー、今日は双子座一位じゃん」


朝のニュースの星占いを眺めつつ、呟く。

ちなみに双子座は俺じゃなくて八雲さん。天秤座の俺は、七位という微妙な順位だった。


「一位記念に起こしてこよーっと」


ま、一位でも最下位でも何だって起こすけどね。

ベッドに横たわった肢体の腹の上に乗しかかって顔を覗き込み、叫ぶ。こうしなきゃ起きないからね。


「おはよー、八雲さん!」
「……はよー……おやすみぃ…」
「いやいや、一回起きたなら起きましょうよ」


重そうに瞼を開けたものの、直ぐに目を閉じて二度寝姿勢に入った人に、ツッコむ。


「…眠いし」
「学校遅刻しますよ」
「…昼から行く…」
「目玉焼き冷めますし」
「…あー…」


あ、食い付いた。ご飯好きだしね、八雲さん。

ちなみにこの“ご飯”には、俺の、って注釈が付くから嬉しいトコだね。手料理が好きなんだってさ、俺の以外ほとんど食べた事ないらしいけど。


「顔洗って着替えて、テーブル着席。出来ますね?」
「…ん」


まだやや寝惚け気味の八雲さんに、幼児に言い聞かせるように言ってから、俺はその上から退いた。

否、退こうとした。八雲さんが足首を掴むから、思いっきりバランス崩してコケたけど。


「うぉっ!? …ちょっと八雲さん、俺じゃなきゃ痛がってましたよ」


ベッドの端にゴチッといったぞ、今。

振り向くと、ぼんやりと此方を見る八雲さん。


「…おはよう、綺」
「はい、おはようございます八雲さん。…ほら、足放して、準備して」


世話の焼ける飼い主だ、別に悪くはないけど。

ベッドから下りて振り向いて、軽い調子で言う。


「双子座、一位だったよ。良い事あるかもね、八雲さん」
「…良かったねぇ」
「いや、アナタの事だからさ」


まだ寝惚けてるよ、この人。


【蜂蜜砂糖 そのさん】 09/6/19

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あきゅろす。
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