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蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんの出逢い B

* * *



次に目を覚ましたのは、真っ白なベッドの中。

状況が分からずきょろきょろと周囲を見回していると、真っ白なカーテンが開いて先程の彼――俺の飼い主となった人が入ってくる。


「あ、目が覚めた?」
「あ、はい……。此処は?」
「病院だよ。内臓が傷付いてるからちょっと入院した方がいいって言われたんだけど、どうする?」


俺が気を失っている間に、病院に連れて来て検査まで受けさせてくれたらしい。

優しい飼い主に大いに感謝しつつ、俺はゆっくりと躰を起こす。酷くだるいが、起きられない事はない。

飼い主はぱちりと瞳を瞬かせながら、俺のベッドの横に座った。


「…流石にまだ、起きない方がいいんじゃないかな」
「んー、大丈夫……ですよ」
「痣とか酷かったけど、痛くないの?」


痛くは、ない。痛いのは、俺は分からないから。

訊ねる彼に、俺は苦笑いして返す。


「痛くは、ないんです。……俺、生まれつき痛覚が働いてないんで」
「え?」
「だから、痛いとかよく分からないんです」


彼が俺の飼い主なのなら、一応俺の体質について話しておいた方がいいかなと思ったんだけど、やっぱり失敗したかな。

ぱちぱちと瞳を瞬かせる彼を見て、思う。

気持ち悪いと、彼も思うだろうか。せっかく拾い上げてもらったのに、捨てられてしまうだろうか。

苦笑いしたまま緩やかに絶望を覚悟する俺を余所に、飼い主は一つだけ頷いた。


「…そう。……とりあえず今は、起きられても安静にしておいた方がいいと思うよ。ほら、寝てて」


言って、彼は俺の背を再びシーツの上に押し付けた。

枕に埋まった頭で彼を見上げると、何でもないような表情で見返される。


「…どうしたの?」
「……いや。気持ち悪いとか……思わないんですか?」
「どうして? 君に痛覚がないって事が、僕にとって何か不都合になるかい?」
「えっ、…あ、さぁ…?」


いや、俺の体質が直接彼の不都合に繋がるかと言われれば、そんな事はないかもしれないけど。

でも、そういう事じゃなくて、実の親ですら気味悪がってるのに……。


「なら特に、問題はないでしょ」
「え、あ……はい……」


……そっか、問題、ないんだ。

淡々と言った彼の言葉は、すとんと俺の胸に落ちてくる。

俺が少しだけぽかんとしながら彼を見上げていると、飼い主はやっぱり淡々とした様子で続けた。


「2、3日は入院した方がいいって言われてるから、その後に家に戻ろうね」
「えっ、あ…。でも俺、入院費なんて持ってない……」
「ペットはお金の心配なんてしなくていいよ」


ぺしっ、と彼のデコピンが俺の包帯の巻かれた額に決まる。どれくらいの強さの攻撃だったのかは、痛みを感じない俺にはよく分からない。


【蜂蜜砂糖 にじゅうなな】 12/9/21

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