蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんの出逢い @
※ 若干の暴力表現あり
俺と八雲さんが出逢ったのは、4月の始め、春の大雨が降っていた日のこと。
その日、田舎のオヤ元から離れて都会へ出てきたばかりだった俺は、運悪くガラの悪いヤツらに絡まれて、運悪くサンドバックにされた挙げ句に雀の涙程であった仕送りを全額巻き上げられて。
本当に、ツイてないって、思ってた。
「……ぅ、え」
いくら生まれつき痛覚がイカレてる俺でも、腹を思いっきり蹴られたら気持ちが悪い。というか、吐きそう。
重い躰を引きずりながら何とか今まで居た場所を離れ、手近な物陰に躰を沈める。
俺をサンドバックにしたヤツらはもう居なくなっていたけど、何の気まぐれを起こして此処に戻ってこないとも限らないし、そうじゃなくても俺自身がいつまでもあんな所に居たくない。……とはいえ、こんなカラダじゃそう長い距離を移動出来ないんだけど。
「げほっ…げっほ! ……うーわ」
噎せ込み口元にやった手に、こびり付く紅い血。内臓、やられたのかも。やばいなー。
痛みは感じないから、自分ではこれがどれ程ヤバい怪我なのかは分からない。ただ、吐きそうなくらい気持ちが悪い。生ぬるい雨が体温を奪っていく。傘なんて持ってる筈がない。
「つぅ…、あー」
正面から蹴りを喰らった腹に手を当て、意味のない呻き声を漏らす。
自由に動けないくらいの体調だけど、ケータイなんて便利なもん持ってないから救急車なんて呼べないし。それ以前に俺一文無しだし。
オヤとは折り合いが悪い……というか、痛みを感じない俺をあの人たちは気味悪がっていて、俺を嫌っている。仕送りをカツアゲされたから送り直してくれなんて言ったところで、送ってくれる筈もない。
……あー、なんかもう俺、最悪此処で、
「死ぬ……のかなぁ……」
「……死んじゃうの?」
「……ぇ?」
感情の無い声で、ぽつりと呟いた言葉。
それに応える声があり、俺は重い頭を上げた。
いつの間にか、俺の目の前にはビニール傘を差した人影。
こんな薄汚れた路地裏には場違いな綺麗な顔をしたその人の、脱色されて真っ白になった髪に幾筋か入った水色のメッシュは、まるで今日は見えない青空と白い雲のようだと思った。
……どうせ死ぬなら、雨の空より青空みたいなこの人の髪を眺めてる方がいい、かな。
そんな事をぼんやりと思いながら、俺がぼーっとその人を見上げていると、彼はうっすらと口元に笑みを浮かべた。
「ねぇ、キミ死んじゃうの?」
「……どう、でしょうね? このまま雨の中でこうしてたら、本当に野垂れ死にそうな気もしますが」
それなら、それでもいいけど。
体調のせいか、酷く厭世的な気分でそう思う。雨で額に貼り付く前髪が不快で、でも腕を上げるのも億劫だ。
何もかも投げ遣りな俺を見て、晴れ間の空みたいな綺麗な人はクスリと笑った。
【蜂蜜砂糖 にじゅうご】 12/4/17
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