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蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんと帰り道

※ 『八雲とちびちゃんと俺』の後、綺を迎えに行った八雲と綺の話





昼休みの終わり、五限目の始まる予鈴がなったとほぼ同時に、ポケットに入れていたケータイがブルブルと震えた。


(八雲さん?)


俺のケータイは飼い主である八雲さんに連絡手段として買い与えられた物で、未だに俺は彼以外のアドレスを登録していなかった。着信もメールも、八雲さん以外には有り得ない。

夕飯のリクエストかな、と思いながらケータイを開くと、そこには極めて簡潔な文字列が表示されていた。



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From:八雲さん
件名:裏門で待ってる。

本文:(なし)


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「裏門……? ……って、今!?」
「うおっ、どーした新島!?」


ギョッとして時計を見上げた。五限目が始まるまで、あと1分だ。

急に声をあげた俺を隣の席の友人が不審げな視線を感じるが、荷物を纏めるのが先決だ。

教科書をひっ掴んで鞄へ投げ込むと、何事だと此方を見ている友人に向かってチャッと手を上げる。


「戸村(とむら)! 俺、急を要して世界を救わなきゃいけなくなったから、早退するわ! 板書よろしくな!」
「へっ、えっ、世界!? おい、新島!?」
「んじゃっ!」


適当な言い訳を叫ぶと、ギョッとしている戸村(彼女いない歴16年)を置いて教室を飛び出す。

廊下で五限目の担当教師ともすれ違ったが、俺が「ちょっと世界救ってくるんで早退します!」と叫んだところ、「おー、世界を救うんなら仕方ないな。気を付けて行ってこーい」と送り出してくれた。…俺が言うのもなんだけど、それでいいのか。

なんて思いながらも昇降口でばたばたと靴を履き替え慌ただしく外へ飛び出すと、裏門に寄りかかった見慣れた影が見えた。


「八雲さん!」
「…早かったね」
「八雲さんが呼び出したんじゃないですか。……わっぷ」


柔らかく微笑んでいる横暴なご主人様に近付いていくと、彼の腕が届く範囲に入った瞬間に抱き寄せられた。

ぎゅっとその胸に頬を押し付けられて、俺はぱちぱちと瞳を瞬かせる。


「…なにかあったの?」
「ううん、何も?」
「………」


緩く首を振りながらもぎゅーっと強い力で抱き締めてくる八雲さんに、俺は戸惑いを覚えながらも彼に任せて大人しくその腕に収まった。

ひとしきり俺を抱き締めて頭を撫でると、一応満足したのか八雲さんは躰を離す。…ホント、どうしたんだか。


「…帰ろ」
「あ、はい」


半歩先に前を歩き出した八雲さんは、言いながらその爪の形まで綺麗な手を差し出した。

それが当然のように手のひらを重ねる。あったかい、八雲さんの手。

痛みは感じないけれど、温もりは感じられるカラダで良かったと思う。…この温もりを感じて、俺は自分がこのヒトの為の生き物だと確認する事が出来るから。

八雲さんに手を引かれて歩きながら、俺は彼の綺麗な指を眺めつつ口を開いた。


「…帰ったら、おやつにしましょうか」
「うん」
「スコーンを焼きますね。…紅茶を淹れて、クロテッドクリームを塗って食べるんです」
「美味しそうだね。早く帰ろう」
「はい」


言葉通りに、八雲さんの歩調が僅かに早くなる。

コンパスの違いで置いていかれないように、俺も彼に合わせて必死に早歩きをした。


二人手を繋いで歩くのも好きだけど、今日は早く二人でお茶を飲みたいな、なんて思いながら。












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ピンクさん視点の『八雲とちびちゃんと俺』の後、八雲が綺を迎えに学校に直行したよ!、っていうお話ww

学校での綺は、普通(?)の高校生。ノリで世界も救っちゃうよ! ←

でも結局綺は、八雲さん第一主義です(笑) 呼び出しには素直に応じる忠こいぬww


【蜂蜜砂糖 にじゅうよん】 11/10/25

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