蜂蜜砂糖 log
八雲とちびちゃんと俺 @
柔らかな口調、柔らかな身振り。
一見棘なんて全く持っていなさそうなこの男は、その実この界隈では極悪非道の代名詞とされている人間である。
屋上で可愛らしい弁当を広げる姿こそとてもそんな風には見えないのだろうが、普段の八雲を知っている人間から見ればこの姿こそ信じ難く、有り得ない。
…あの“最凶”にして“最狂”、宗柳八雲が、可愛らしい同居人の可愛らしい手作り弁当食べてる姿なんざ。
「……牡丹」
「あ?」
「さっきから何を見てるの? …言っておくけど、おかずはあげないよ」
「いや、狙ってない、断じて狙ってねぇから! だからそんな盗人見るみたいな目は止めろ!」
怖ぇんだよ、お前!!
必死で弁解すれば、八雲は俺に対する興味を無くしたのか、再び弁当へ視線を戻す。
形の良い黄色い卵焼きに、タコやカニの形に飾り切りされたウィンナー。桜でんぶで味付けされたご飯は、可愛いピンク色。デザートのリンゴはウサギ型。
…つくづく八雲に似合わない。
「…相変わらず器用だな、ちびちゃん」
この男に似合わない弁当の製作者である子供の話題を出すと、八雲が淡く微笑む。
「毎朝、僕の為に早起きして作ってくれるんだよ。…僕が学校行かない日でも、ちゃんとね」
ちなみにこの“学校に行かない”とは、即ちサボリの日である。…まぁ、その辺りは俺も人の事は言えないけども。
箸で卵焼きを抓みながら笑う八雲を、俺は買って来させたパンを頬張りながら見やる。
「………、随分可愛がってるこった」
「…だって、あの子は僕以外に何もないんだよ? 可愛いじゃない?」
「………」
詳しい経緯を俺は知らないが、八雲はあの子を道で“拾った”らしい。
健気でちょっと…いやかなり世間擦れしているあの子は、案外俺たちに負けず劣らない壮絶な事情を持っている…らしい。八雲もちびちゃんも多くを語ろうとしないから、俺は詳しい事は知らないけど。
…だからこそ、ちびちゃんはこんな八雲と一緒に居る訳だ。選択肢は無いとはいえ、可哀想な子だ。
「……牡丹、何か言いたいの?」
「…イエ、別に…」
俺口に出しては何も言ってねぇのに……怖ぇよ。
にこりと目を細めた八雲に、俺は引きつり笑いを返して視線を逸らす。
(…ホント、有り得ないくらい執着してんなー…)
あくまでもこの男にとっては、っていう前置きが付くが、まさにそうなのだ。
宗柳八雲は、新島綺に執着している。…恐ろしいのは、その自覚を執着されている本人は全くしていないところか。
【蜂蜜砂糖 にじゅういち】 11/7/11
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