蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんとピンクさん B
八雲さんは俺とピンクの人を交互に見やると、長い脚で俺の方へやって来た。
「…綺、知らない人を家に上げちゃダメでしょう?」
子供を諭すような口調と頭に乗せられた手に、俺はフライパンを持ったまま首を振った。
「違うよ、俺が中に入れた訳じゃないよ。気付いたら入ってきてたんだ」
言って、俺はピンクの人を見る。彼は美形な顔をポカンとさせ、此方を呆然と見ていた。
…そもそもこの人、どうやって入って来たんだ?
俺が首を捻りつつもとりあえず焼き上がったホットケーキを皿に移していると、やっと我に返ったらしいピンクの人が俺と八雲さんを見て声を上げた。
「…は? え、何? この子って、八雲の公認なの…?」
「牡丹(ぼたん)、何の話?」
ボタン、と呼ばれたピンクの人は、やっぱり八雲さんの知り合いなんだろうけど。
うわ、やっべ。と言わんばかりの顔をしたピンクの人に、八雲さんはその綺麗な眉を上げた。
「え、あー、う〜ん…。いや、何でもないよ〜?」
「何でもない、って感じじゃないね」
「そんな事ないよ〜、あはは…」
にっこり笑顔な八雲さんと、乾いた笑いなピンクさん。
その間に立っている俺は、微妙な空気に瞬きながらも、とりあえずは、
「ねぇ、八雲さん」
「なぁに、綺」
「…ホットケーキの二枚目、焼いていい?」
余ってるタネが心配。
俺がそう言うと八雲さんはクスリと笑い、俺の背を押してキッチンの中に戻してくれた。
…ちょっとリビングの様子も気になるので、聞き耳を立てながら二枚目のホットケーキのタネををフライパンに注ぐ。
「……で、何?」
「え…あぁ…。…いや、八雲ん家入ったらあの子がいたから、てっきりタチのわりぃストーカーとかかと思って…」
「思って?」
…訊き返す八雲さんの声が、いつもと違って微妙に冷たい。
ぼそぼそと喋るピンクさんの声は聞き取りづらいが、俺は聴覚は結構良いのでちゃんと聞く事が出来た。
「……ちょ〜っと、ビビらせちゃったかなぁ」
──ゴスッ!!
……殴った、のか? 今の音は。
八雲さん、細いくせに馬鹿力だからなぁ。大丈夫だろうか?
「…綺」
「わっ!?」
二枚目をひっくり返しつつ首を捻った俺の背後に、気配もなく八雲さんが立っていた。
えっ、さっきまでリビングにいたよな? いつの間に?
瞬く俺を後ろから抱き寄せ、八雲さんは俺を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「何が?」
「…牡丹が馬鹿な真似をしたみたいだから」
す、と白魚のようなたおやかな指先が、俺の喉をなぞる。…先程ピンクの人に締められた場所だ。
「痣になってる」
「…大丈夫だよ、これくらい」
普通の人と違って、俺はこういうの“痛くない”んだから。
そう言って笑うと、八雲さんは少し困ったように眉を寄せた。
「心配してくれてありがとう。…それより、ピンクさん放っておいて平気なの?」
「ピンクさん…? あぁ、アレは今反省させてるから」
「反省…」
「猿にでも出来る、簡単な事でしょう?」
クス、と笑う八雲さんは、やっぱり美人だ。…ピンクさんも結構な美形だけど、俺は八雲さんの顔の方が好きだな。
華やかに笑う八雲さんにつられて笑いつつ、俺は焼き上がったホットケーキを皿に移した。
「…とりあえず、みんなでホットケーキ食べよっか」
「…牡丹も?」
「だって、八雲さんのお客さんでしょ?」
八雲さんに焼きたてを渡しつつ、俺はリビングに顔を出す。
「ピンクさーん、メープルシロップいりますか〜?」
反省、フローリングに正座したピンク頭は俺の言葉に目を丸くする。
「え、ピンクさんって俺の事? え、メープルシロップ?」
「三時はおやつの時間ですから〜」
「は?」
「…牡丹、ウチの子のおやつも食べられないの?」
「えっ、あ、はい頂きます! そしてごめんなさい!!」
俺の後ろから顔を出した八雲さんに、全力でピンクの頭が下がる。
ていうかまだ自己紹介すらしてないけど……ま、いっか!
とりあえず、おやつタイムって事で!
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綺と八雲さんと、不良なお友達の話です(笑) 自己紹介のシーンとかは、なんか面倒なのでぶった切った(爆) 重要なトコロじゃないのかw ←
ピンク頭の不良さんの名前は、長岡牡丹(ながおか ぼたん)。でも今後も綺の中では、「ピンクさん」としか呼ばれません(笑)
綺や八雲に比べるとかなり常識的思考をもった人なのですが…、不憫キャラです(笑) 一応八雲と同じくらい強い人らしいんですがw
三角関係(笑)ではなく、アドバイザー的立ち位置になる筈のピンクさん。多分一番不憫なので、温かく見守ってあげて下さいww
【蜂蜜砂糖じゅうに】 09/10/17
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