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蜂蜜砂糖 log
俺と八雲さんとピンクさん @

これは、俺が八雲さんの家に居候するようになってから、一ヶ月程だった頃の話。



ある休日の昼下がり。リーンリーンと、レトロなベルを響かせるのは、八雲さんから買い与えられた白い折りたたみ式携帯電話だ。
ちなみに着信音設定は昔ながらの黒電話。着うたとかは、なんとなく好きじゃない。

コレに電話を掛けてくるのは九割八雲さんなので、俺はぱたぱたと急いで電話に出る。


「もしもし、八雲さん?」


名前を呼べば、電話越しにも耳通りの良い美声。


『もしもし、綺。今、家?』
「うん、家だけど」
『そっか。じゃあ、ホットケーキ作って?』
「へ?」


唐突な要求に目を見張る。まぁ、八雲さんが唐突なのはいつもの事なんだけど…。

俺は一人マンションのリビングで瞳を瞬かせながら、首を傾げて訊き返す。


「…えと、おやつにでも食べたくなったんですか?」
『うん。あと30分くらいしたら帰るから、作って待ってて』
「あ、はい」


まぁ、家主の八雲さんの希望なら、叶えるのがペット兼家政婦な俺の役目。

ホットケーキなんて材料さえあれば作るのは簡単だし、俺は携帯片手に頷いた。

俺の返事を聞いて、八雲さんは電話越しに柔らかに笑う。


『ん、じゃあまたね。いい子で待ってるんだよ』
「はーい。俺はいつでもいい子だよ、八雲さん」


ふふ、という綺麗な笑い声を残して電話は切れた。

携帯をリビングのテーブルに置いた俺は、早速キッチンに入ってホットケーキの準備を始める。

えっと、この前簡単なお菓子作り用にホットケーキミックスは買ったから、あとは卵と牛乳な。

適当な大きさのボウルに片手で卵を割り入れつつ、泡立て器で卵を溶く。
卵が溶けたなら、このタイミングで粉を何度かに分けて投入。


「牛乳を先に入れちゃうと、粉がダマになりやすくなるから、要注意ですよ〜」


なんて、誰に言うでもなくワンポイントを呟いてみたり。

ボウルの中身をがしょがしょかき混ぜる傍ら、大きめのフライパンを中火で加熱。…フッ素加工のフライパンなので、バターや油を敷く必要はありません。


「低温でじっくり焼くのがミソなので、フライパンを冷ます為の濡れ布巾も用意しましょー」


なんて、一人三分クッキングな俺。端から見ると阿呆全開だが、誰が見てる訳でもないのでセーフ。

ブツブツ呟いてるうちに生地も出来てフライパンも温まったので、早速焼きましょう。


「ふんふ〜ん♪」


──ガチャッ


「…おやぁ?」


適当に鼻歌なんか歌っていたら、玄関のドアが開いた音。まだ30分は経ってないと思うけど、もう八雲さん帰ってきたのかな?

俺はホットケーキの焼き加減を見、まだ大丈夫な事を確認してから片手にフライ返しを持ったままキッチンから出る。


「おかえりー、八雲さん。早かったね、まだホットケーキ焼けてない……よ?」
「…え、ダレキミ?」


いやいや、こっちの台詞です。


【蜂蜜砂糖 そのきゅう】 09/9/10

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あきゅろす。
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