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蜂蜜砂糖 log
たのしい夕ごはん

「そういえば、翡翠先輩、孝雪先輩。お花さんとお星さま、どっちがいいですか?」

「「…何が?」」


今日のおやつは、焼きたてのフラン。昨日から冷蔵庫で休ませて置いたブリゼ生地を、生徒会室に持ち込んだオーブンで焼き上げた、カスタードクリームのシンプルながらも本格的なタルトだ。

熱々のそれを水出しのアイスティーと頂いていた二人は、それをニコニコと笑って眺めていた鈴の唐突な問いに思わず間の抜けた声で返した。

鈴は時々、主語やら説明やらを吹っ飛ばす。


「何って卵ですよ、目玉焼き」
「……目玉焼きが、何だって?」
「だから、お花さんとお星さま」
「………、ごめんね、よく分からないや」


目玉焼きがお花さんとお星さまって、一体何の話? 相変わらず、鈴の台詞はファンタスティック過ぎる。

その気なく先輩二人を精神的にノックアウトした鈴は、不思議そうに首を傾げたが、生徒会室を小さくノックする音に顔を上げた。


「…お兄ちゃん!」
「あぁ鈴、…良い匂いだね」


ドアから顔を覗かせた椿は、飛込んできた弟を受け止めて微笑んだ。


「お兄ちゃんの分もあるから、一緒に食べよう」
「ありがとう」


ふわふわの蜂蜜色を撫でる椿と、その胸にすりすりと擦り寄る鈴。

そんな仲睦まじい兄弟に、鈴の問いに頭をショートさせていた二人も戻ってくる。


「やぁ椿、さっきぶり」
「さっきぶり、孝雪、翡翠」
「あぁ」


二年生三人はクラスメイトでもあるので、会うのは本当にさっきぶりだ。

生徒会と風紀、放課後は別々で居る事が多かったのだが、鈴が学園に入学してからは放課後も一緒に居る機会が増えた。ティータイムはみんな一緒の方がいい、という鈴の希望である。

…翡翠に椿、二人が鈴に甘いのも大概だが、孝雪を始めとした他の生徒会メンバーも鈴には結構甘い。

楽しげに椿の分のフランを用意する鈴が、ふと気付いたように兄を振り返った。


「…そういえばお兄ちゃん。お兄ちゃんはお花さんとお星さま、どっちがいい? 目玉焼き!」


意味がよく分からない、先程と同じ問い。

これで意味が通じる訳がない、と翡翠と孝雪は思うが、椿は緩く首を傾げつつも口を開く。


「あぁ、今日のお夕飯? 僕は…お花さんかな」


通じたらしい。流石は兄弟だ。

…というか、目玉焼きっていうのは晩御飯の話だったのか。よく分からないけれど。


「…椿、俺たちにはその質問がどんな意味なのかが分からないんだが」
「…? 目玉焼きの型抜きの話でしょ」
「…は?」


当たり前のように答えた椿に、二人は目を見張る。


「多分ね、ハンバーグの上に載せるんだよ、型抜きした目玉焼きを」


今日のお夕飯が楽しみだねぇ、なんて言う椿に、翡翠と孝雪は顔を見合わせた。


「…意味は分かったけど、やっぱ発想が分からない」
「…そうだな、世界が違う」


ハンバーグの上に目玉焼きを載せる、その献立なら分かる。ただ、それをわざわざ型を抜いて飾りつけるのかが、よく分からない。

楽しげな永峰兄弟を、世界が違う、と遠い目で見つめる二人が、現実は更に“世界が違う”という事を思い知らされるのは、これから数時間も経たない内だ。



* * *



「みんなお待たせ〜、ご飯だよ〜!」

「「「……………」」」


420号室に、今日も今日とて大集合。ご飯はみんなで食べた方が美味しい!、と鈴が言うのもあるし、実際彼の作る食事が食堂などのレベルを超越している、というのもある。

それはさておき、今日のメニューな訳だが。

事前にそれぞれに希望を訊いていた、お花さんもしくはお星さまの型抜きがされた目玉焼きの載った、可愛らしいデミグラスハンバーグ。
こんもりと丸く盛られたチキンライスのてっぺんに、ちょこんと刺された旗。
小振りのエビフライの尻尾には細いリボンが結んであり、沿えられたウィンナーはタコさん仕様。
付け合わせのポテトサラダに入った人参やきゅうりもお花さんやお星さまに型抜きしてあり、その上にプチトマトが彩りよく載っている。
デザートのプリンの上に、生クリームとチェリー。

これら全てが一つのプレートの上に盛られたそれは、紛れもなくお子様ランチ、である。…それぞれの量こそ食べ盛りの高校生の食欲に見合うボリュームだが、そういう問題でもない。


「…わぁ、美味しそう」


そう言って笑う椿以外は、全員が全員無言だ。リアクションに困っている、が正しい。

…こうしていつまでも黙っていても仕方ない。椿以外の全員の視線を受けた翡翠が、意を決して口を開いた。


「…なぁ、鈴」
「何ですか?」
「…これは、何だ?」
「ご飯です」


それは見れば分かる。…いや、分からないが。

首を傾げる鈴に、こめかみを押さえ翡翠は言う。


「メニューを訊いてもいいか?」
「? お子様ランチです」

「「「やっぱそうなんだ…」」」


鈴の答えに、呟きを返したのは全員。

分かってて作ってるのか、性質悪すぎないだろうか。特に悪気が全く無さそうな辺りが。


「…お前、遊んでんのか?」


深くため息を付きつつ、言ったのは御門。その言葉に、鈴はきょとんと瞳を瞬かせた。


「? お料理って、半分は遊びでしょ?」

「「「…………」」」


その言葉に、皆がっくりと肩を落とした。

勝てる気がしねぇ。


「早く食べなきゃ、冷めちゃうよ?」

「「「いただきまーす…」」」


首を傾げる鈴に、諦めた全員が声を揃えた。


今日も、たのしい夕ごはん!








みんな仲良しですw 鈴の周囲はみんな鈴に甘い(笑)

鈴のお子様ランチ、食べたいなぁw 美味しいですよ、味はとっても(笑)


永峰兄弟がメルヘン思考なのはお母さんの影響なのですが、その内お母さんの話も書いてみたいなー、なんて思ったりしていますw

鈴はお母さんにそっくりですw


【蜂蜜砂糖 そのいち】 09/6/7

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