[通常モード] [URL送信]

世界はユートピア
2

「あっ、綾都先輩、驚かさないで下さいよっ…」


マイクを手で覆いながら、後ろを振り向く。

…ていうか近っ! あともう3cmでちゅーが出来ちゃうレベルだよ、これ! いやしないけどね!?

うん、いくらお喋りに夢中になってたと言え、気付けよ俺。…てか綾都先輩、気配無いとかアナタは忍者か。


「あはは、そんなに驚かせちゃったかい?」


えぇ、そりゃもう物凄く。

そんな至近距離で爽やかなプリンススマイルなんか見せられたって、うっかりときめいちゃったりしないんだからなっ!

くっ、このイケメンめ…。


『…ちょっとゆー、いきなり大声出してどうしたん…』
『…うっすら聞こえるその会話の流れ、もしかして彼氏?』
『ホンマ? ゆー、その話kwskー!』


イヤホンの向こうでさっちゃんとひぃちゃんが何か言ってる気がしますが、多分気のせいですよね。

おそらく俺の不意の絶叫で鼓膜に被害を受けたと思うのに、ちゃっかり俺のラブ話は聞き漏らさないのね…。流石はマイ腐レンズ。

俺は通話越しの二人にも、至近距離で微笑む綾都先輩にも言葉を返せず、はぁ、と息を吐いた。倖せが逃げちゃうから、きっとため息とは似て非なる何かだよ。

あぁ、ちなみに「ゆー」ってのは俺のあだ名ね。

萌えネタを寄越せと回線の向こうで騒ぐ幼なじみたちに、綾都先輩がゆるりと首を傾げる。


「梼のお友達? うっすら声聞こえてるけど…」
「えっ、あ、あぁー…」


だよね、こんなに近くに居たら聞こえるよね。「平凡腐男子受けグッジョブ」とか、「腹黒美形王子様モエス」とか言ってる二人の声が。

…俺も人の事言えないけど、ひぃちゃんもさっちゃんもさぁ…。

俺が遠い目をしているうちに、綾都先輩はパソコン前の椅子に座っていた俺をひょいと持ち上げた。

油断しきっていた俺は、思わず目を見張る。


「わっ、綾都先輩!?」
「どっこいしょ…っと」


激しく顔に似合わない掛け声に脱力する俺を膝に乗せ、綾都先輩は俺が座っていた椅子に座り直した。

後ろから俺をギュッと抱き締め、肩に顎を乗せてマイクに喋りかける。


「もしもし、こんばんはー?」
『おっ? こんばんはー』
『お晩ですー』
「ちょっと、綾都先輩!?」


席も通話も乗っ取られたよ!

極めて和やかに、綾都先輩に挨拶を返すひぃちゃんとさっちゃん。

…あ、これ何かヤバいフラグですか? 思う存分二人の萌えネタにされちゃうフラグですか、そうですか。


≪  ≫

2/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!