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Ange Noir 続き

──…うん、アホだ


城か宮殿かと見紛う程の巨大な校門を見上げ、美月がまず思ったのはそれだった。

実家はそれなりの金持ちではあるものの、日本にいた頃は小中共に公立の学校に通っていた美月は、この常識外れな大きさの門に驚くよりも先に呆れの感情を抱いてしまった。

…どう考えても、教育機関にこれだけの門──そしては校舎は要らない。


(夕兄も何考えてんだか…)


この校門がここ数年で理事長になったハズの夕の趣味ではないとは理解しているが、どうしてもそう思わずにはいられなかった。

美月は鈍痛を訴える頭を掻こうと無意識に後頭部へ手を伸ばし、ふと気付く。そこはいつもの自分の“頭”ではないと。

日本に戻ってきてから、美月は黒のウィッグを被っている。ボサボサ仕様とかそういう訳ではなく、ごく普通の黒髪の。同様に、瞳も黒のカラコンだ。
北欧系の血が混ざったクォーターである美月の地の色は、銀の髪と薄氷の瞳。…黒髪黒目が基本の日本の中では、些か目立つ色合いだ。


(あっちなら金髪とか多いから気にされないけど、日本だとやっぱ目立つもんなぁ…)


悪目立ちするのは本意ではない。…特に、こんな変な時期の編入生では浮いてしまう可能性もあるだろうから余計に。

一度渡英する前も学校では即席黒髪黒目にしていたから、慣れた事ではあるのだが…、一年ぶりなので少しだけ違和感がある。


(…まぁ、俺の事はどうでもいいけど、問題はこのバカデかい学校だよなぁ…)


ちなみにこの場合の“バカ”は、文字通りの“馬鹿”だ。

美月はハァー、と大きなため息をついてからとりあえず巨大な門をくぐった。
なんだかんだ言っていても、明日からこの学校に通うよりは他がないのだ。


「うっわー…、中も無駄に広ー」


まだ数mしか進んでいないのに既に疲れきった声で呟き、呆けた様に前方を見渡した。

…余りの広さに、先が見えない。


「…はー…。…ま、でも一応真っ直ぐ進んでりゃあ校舎も見えてくんだろ」


無理矢理思考を考えなしな前向きに矯正し、美月は前を向いて歩き出した。



* * *



…約二十分後、美月は早速後悔していた。

校舎が見えない、道に終わりが見えない!

……ちなみに美月が自ら道をそれて進んでいるのだが、自分の方向音痴を忘れている彼にそんな自覚がある筈もない。


「…てーか噴水ってナニ、噴水って。イギリスにもいっぱいあったけどさぁ、向こうヨーロッパ、ここ日本だろ〜?」


右手奥に見え始めた欧州庭園さながらの華美な噴水に、美月は八つ当たり気味に呟く。

黒のカラコンの上から銀フレームの細身のメガネという、事情を知る者から見ればやや奇妙に感じる装備の瞳を細め噴水付近を伺えば、そこに数人の人がいるのに気付いた。


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