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竜の棲む山 4

昨日の余りの鳩肉ときのこと山菜その他の煮込みスープ。山ブドウは昨日食べきってしまいました。代わりに、木の実を擦り潰して焼いたパンもどきがあるから許して欲しい。

いただきます、と私は習慣の通りに手を合わせ、スプーンを取った。私の様子を注意深く見つめていた彼に見せつけるようにスープを咀嚼し、顔を上げた。


「毒とかは入ってないから大丈夫だよ」
「……あぁ」


毒きのこなんて入ってないよー、安全だよー、と自ら先に食べてアピールすると、彼はゆるりと頭を振ってスプーンを持ち上げた。どことなく優雅さを感じさせる動きで、スープを口に運ぶ。

お味はいかがかね。などと思うが、口には出さず彼を見つめる。


「…………」


味の感想を、彼は特に口にしなかった。ただ黙って、スープとパンを口に運ぶ。なので、私も黙って食事を続ける。

彼は多分、質問のタイミングを計っているのだろう。単にお腹が空いていたのもあるのかもしれないが。

私が食べ終わるよりも先にスープの皿を空にした彼に、此方から声をかけてやる。


「おかわりはいかが?」
「……いや、大丈夫だ。ありがとう」
「どういたしまして」


そのありがとう、が食事になのか、それとも私が彼を助けた事になのか。全てになのか。

彼はその藍色の瞳で、私の金色の竜眼を見つめると、口を開いた。


「貴女は、この山に棲むというドラゴンか」
「……いや、私はドラゴンじゃないよ。この山に住んではいるけどね」


私はドラゴンじゃない。

この、全力で爬虫類を主張する竜眼こそが――私が『ドラゴンではない』証なのだ。

そう言うと、彼は意味がよく分からないといった表情をした。どちらかというと冷たい印象を与えそうな美貌だが、案外表情豊からしい。

私はスプーンを置いて、此方を見つめる彼を見つめ返す。


「仮にホンモノのドラゴンが今の私みたいな人間の姿をとっていたとすると、それは擬態なんだよね。それらしく見せる為の擬態だったら、こんな全力で爬虫類主張する竜眼の人間姿になんかならないよ」
「……つまり?」
「私のこの姿は擬態じゃない。元々この姿だから、この竜眼を隠せない。私は、ドラゴンじゃないよ」


ドラゴンの父親と人間の母親の間に産まれた私は、産まれた時からずっと人間の姿。ドラゴンならばある筈の、竜体がない。

鱗も角もない、瞳以外は普通の人間。……いや、身体能力とか魔力とか寿命とか、色々普通の人間離れしてはいるんだけど、とにかく私は『ドラゴン』の枠には当てはまらない生き物なのだ。


「……貴方は、この山に棲んでるっていうドラゴンに会いに来たのかな? なら残念だけど、この山にはドラゴンは住んでないんだ。半竜人間の、私がいるだけで」
「……、そうか」


私がそう言うと、彼は深く息を吐いて首を振った。


14/10/16

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