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竜の棲む山 1

『ドラゴンの棲む山』

なんて言ってしまうと、なんだかRPGの中盤から終盤辺りに出てきそうなダンジョンの名前みたいだな、などと思ってしまう。

『ドラゴンの棲む山』、とは、私が暮らしている山の通称だ。ちなみに実際はドラゴンなんて棲んでいない。私はいるけれど。でも私は人間だし。


「私は人間だし」


金属の表面をピカピカに磨き上げて作られた鏡を覗き込みながら、呟く。肩胛骨を覆うくらいに伸ばした、白から黒へのグラデーションなファンタジーな髪に(ちなみに地毛だ)、若かりし頃は傾国の美女なんて呼ばれていたらしい母譲りの煌びやかで整った面立ち。グラビアアイドルのような出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだプロポーション。そして、

鏡の中から自分を見つめ返す、ギョロリとした細い瞳孔が目立つ、どう見ても「爬虫類です」と全力主張している金色の双眸。


「……私は、人間だし」


ただちょっと瞳が竜眼なだけで、父親がドラゴンだっていう、普通の人間なんだってば。






そんな他人から言わせれば「どこが普通だ!」と言われそうな私の生い立ちは単純明快、人間の女に惚れ半ば拉致気味に求婚したドラゴンと、なんだかんだ言いつつそのドラゴンを受け入れた人間の女の間に生まれた第一子の、ドラゴンと人間のハーフだ。

ついでに言うなら、前世の記憶を持つ転生者。日本という平和ボケした島国で、平和ボケした女子高生としてキャッキャと暮らしていた頃の記憶を持っていて、そのお陰で人間だという感覚が抜けないのだ。……いや、感覚がどうこうとか言わなくても私は人間なんだけどね。お父さんは竜だけど。ちょっと普通の人間よりも、腕力が強くて魔力も強いみたいだけど。

まぁ、私に前世の記憶がある事自体は、大して関係のある話じゃない。日本人だった頃の曖昧な知識で、ちょっと生活に便利な道具……前世では家電とか言われていた物を魔法具に置き換えて作ったりしてるくらいだ。冷蔵庫とか洗濯機とか、やっぱ生活には欠かせないよね、あるととても便利。

とりあえず私は人間で、でも眼を見たら一発で普通じゃない事が分かってしまう容姿をしているので、人里離れた山の中に住んでいる。完全な隠遁生活だが、家電というオリジナル魔法具のお陰で案外不自由なく暮らしている。親兄弟が時々私に会いに来るせいで此処がドラゴンの棲む山だと噂されるようになって、もっと人が近づかなくなったみたいだけど、人間な私には関係のない話だ。



「今日は何を食べようかなぁ」


衣食住は文化的生活の絶対条件。
住処は手近な洞窟を魔改造して、(前世の)普通の家と比べても遜色ないような居心地の良い空間を作り上げているし、衣服はたまにやってくる父や弟たちが肌触りの良い絹や木綿をプレゼントしてくれている。
そして食事に関しては、山に自生している果物やきのこ、山菜を採ったり、そこら辺をうろちょろしてる獣を狩ったりして食材を手に入れている。なんという原始時代。でも、慣れると意外と悪くもない。私一人分の食料なら、簡単に手に入るし。

昨日は猪(によく似た魔物。一回二回で食べきれない分はベーコンやソーセージにしている)だったし、今日は鳥肉かなー。あとはそろそろ山ブドウが食べ頃の筈だから、それも採ってきてデザートにしよう。そうしよう。

なんて、今日の夕飯計画を立てて、住処の洞窟から出て暫し。私が籠いっぱいの山ブドウとその他きのこなどを採り、途中で遭遇した鳩に似た中型の鳥の魔物を猟って戻ると、ふと背後から山の獣ではない、別の生き物の気配がした。


「――!!」


籠を抱えたまま、振り返る。ガサッ、と草木の揺れる音。緊張したまま何が現れるのかを見つめていると、そこには。


「にん…げん?」


ボロボロになったローブを着た、自身もかなりボロボロな青い髪の青年。わぁ、人間なんてこの山に住み始めてから初めて、数十年振りに見た。















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ファンタジー系転生もの。でも主人公は自称ただの人間なので、心躍る冒険譚は始まらない感じです(笑)

爬虫類眼は萌えるよねというお話。


14/10/9

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あきゅろす。
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