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ケンカップルの朝(仮)

小鳥のさえずりが窓の外から聞こえる、爽やかな朝。

枕元から感じた殺気にルイスが目を開け身を起こしたのと同時に、今まで寝ていた枕元に鞘に入ったままのダガーナイフが付き立てられた。


「……爽やかな朝に、いつまでも耳障りな寝息響かせんじゃねーよ、木偶」


三年間側で見続けてきた相棒の、見慣れた顔。面立ち自体は整っているが、ルイスに向けられるのは大抵こうした苛立ったような表情だ。

鞘がなければ枕に突き刺さっていただろうダガーを手で払って、起き抜けのルイスは相手――相棒であるシンの顔を見つめ返した。薄い唇には、嘲るような冷めた笑みが浮かぶ。


「…相変わらず、随分と品の無い起こし方だな」
「今更だろ」
「そうだな、お前に品が無いのなんて、今更だ。小猿」


わざとシンの言葉の意味を取り違えて言い返すと、元より不機嫌そうだったシンの眉の角度が上がる。

一度払われたダガーが勢い良く振るわれるのを、ルイスは片腕で防いだ。


「朝からムカつくヤローだな、テメェは」
「こっちの台詞だ」
「上等じゃねえか……今日こそ決着を付けてやるよ」


その言葉が、ゴング代わり。ルイスは布団をはね退け、素早く襲いかかってくるシンの技に応戦した。



* * *



ガタガタと、急激に騒がしくなった通称『クロノス長屋』の片隅に、ギルド・クロノスのマスター兼メンバーの世話係である女性、オペラは朝食を作っていた手を止めた。


「…あぁ、もうそんな時間か」


時計を見上げれば、ほぼいつも通りの時間。そろそろ他のメンバーたちを起こしてきていい頃合いだ。

毎朝飽きもせず、ほぼ同じ時間に喧嘩を始める二人のお陰で、ギルド・クロノスは目覚ましやアラーム要らずである。

温めていたスープの鍋の火を止め、ちょうど良いタイミングで起き出して来た古参の兄弟コンビに声をかける。


「おはよう。ハイド、他の奴らを起こしてきてくれ。クロードはアイツらを止めてこい」
「おはよう、オペラさん。分かったよ」
「……何で俺が毎回調停役みたいになってんの」


素直に頷いた兄の方とは反対に、弟の方は心底面倒臭そうに表情を歪める。


「魔道士のハイドを、前衛コンビの間に行かせる訳に行かないだろう」
「そりゃ、兄さんを行かせる訳にはいかないけどさ……」


ぶつぶつと文句を垂れるクロードをハイドが宥めつつ、二人は起き出して来たばかりの長屋の廊下に逆戻りする。

まだ静かな他のメンバーたちの寝室を順にノックしていく兄の背中を眺めつつ、クロードは一つだけバタバタと騒々しい部屋のドアをノック無しに開けた。

瞬間、どちらの物かは知らない金属で出来たカップが、ドアを開けたクロードの頭の脇を通過していく。――ガシャン、と背後で耳障りな金属音。


「「……あ」」


互いに鞘入りの得物を構えた二人が、気怠そうな表情をしていたクロードがにこりと笑顔に変わる瞬間を見た。

嵐の後のような有り様の部屋の中、危険な空気を察したルイスとシンは、さっきまで大暴れしていたのが嘘のようにピタリと喧嘩を止め隣合わせに並んで姿勢を正すが、もう遅い。


「お前ら、毎度朝からホント懲りねえなァ……?」


拙い。普段のやる気のなさそうな気怠げな口調が、ヤンキーのように変わっている。

ルイスとシンは青ざめた顔を見合わせ、笑顔のまま青筋の浮いているクロードに弁解しようと口を開こうとする、が。


「…こらっ、お前までキレて暴れてどうするんだ」
「兄さん」


救世主は、ブチ切れ寸前のクロードの後ろから現れた。

咎めるように後頭部を軽く小突いた最愛の兄に、クロードの怒気は簡単に引っ込む。

助かった、と胸を撫で下ろす二人に、けれど救世主の残酷な一言。


「物を投げたり壊したりはするなって言われてただろ? 二人とも、オペラさんに言い付けるからな」
「ハイド! それだけは勘弁!!」


ブチ切れたクロードも怖いが、我らがギルドマスターの方がもっと恐ろしい。

シンの悲鳴のような声に、ルイスも頷く。


「と、言われてもなぁ」
「というか、もう聞こえている」

「「うわっ!!?」」


頬を掻くハイドの背後からひょこりと顔を出した影に、ルイスとシン、ハイドクロード兄弟も全員がギョッと驚く。

前衛三人にすら全く気配を気取らせなかった、見た目は非常に若い年齢不詳の美女は、先程のクロードよりも遥かに鮮やかな笑みを見せた。


「お前たち、遅い。他の者はとっくに席に着いた。早く朝食にするぞ」
「あ、はい」
「兄さん、行こ」


彼女の怒気を向けられていない兄弟は、一つ頷いてするりとその場を離脱する。

逃げられないのは、彼女に見据えられたルイスとシン。二人ともオペラより上背は高いが、笑顔のまま仁王立ちする彼女に見下ろさているような気がしてならなかった。


「あの、オペラさん…」
「二人とも、朝食が終わったら部屋に来い」
「は、はい……」


それだけ言って食堂兼居間に戻って行った彼女を追わず、こそこそと隣の相手をつつき合う。


「カップ投げたの誰だよ…」
「お前だろ」
「俺じゃねえよ。テメェだろ?」
「俺じゃない。人のせいにするな、シン」
「はぁ? 俺はカップなんて触った記憶ねえっての。俺じゃないならルイスだろ」
「俺だって……」

「――お前たち?」

「「今行きます!!」」


顔を覗かせたオペラに慌てて応え、同時に廊下を駆け出す。

そんな彼らの様子に、既に席に着いていたメンバーたちは呆れ気味に息を吐く。


「相変わらず、なんだかんだ気が合ってるよねぇ?」
「あの調子で三年やって来たからな」


ギルド・クロノスの日常的な朝は、ナイトとアサシンの前衛コンビの喧嘩から始まる。


「ま、夜も大抵喧嘩で終わるんだがな」
「どうしました、オペラさん」
「なんでもない。独り言だ」














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騒がしいケンカップルとギルドのみなさん。

ファンタジーでギルドで相棒制度な話を結構前から考えてはいたんですが、書き出す機会もなく脳内にしまってた……のですが、どうしてもケンカップルが書きたくなって(笑)

ルイスがナイト、シンがアサシンの前衛コンビです。戦闘中は相手を罵倒し合いつつも、上手い事連携して戦いますww


14/5/15

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