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竜と青年(仮) 3

* * *



(今思い返してみても、イアの思考回路は意味が分からないな……)


いかに彼女が『人間好き』の竜だとはいえ、数百年の眠りから醒めた後その場に居た人間を、それがどんな相手かすらも知らないくせに、竜の長すぎる一生の伴侶に据えるだなんて。

膝の上ですやすやと眠る人型をした竜の頭を撫でながら、青年・クラウは軽くため息を吐いた。

竜の契約者――伴侶となったあの日から、少年を青年にさせる以上の月日は経った。にも関わらず、クラウの見た目はまだ少年と青年の間くらいのごく若いままの姿で時が止まっている。なんの事はない、竜との契約の対価であり、イアの好みである。

自身の膝を枕にして随分長い間爆睡している少女姿の竜の頭を揺り起こし、クラウははぁ、とまた息を吐いた。


「……イア、いい加減に起きて。いくら僕が丈夫でも、流石に足が痺れてきた」
「んぅ……もう、食べられない……」
「どんなベタな夢を見てるの。こら、起きなさい」


彼女本来の姿である竜の全身を覆う煌めかしい水晶の鱗と同色の、艶やかな銀の髪を軽く引いたり、柔らかい頬を引っ張ったり。けれど、元が丈夫な竜はこんな刺激では起きやしない。

むにゃむにゃと寝言を呟くイアに、これが本当に世界で数頭も生き残りのいない水晶竜の一人かと嘆きたくなる。伴侶一筋のこの少女に、竜の威厳など元よりありはしないが。


「イアー、起きなさい。寝ぼすけの竜には、おはようのキスもしてあげないよ」
「ふ……?」
「あ、反応したね」


揺すっても髪を引いても頬をつついても起きる様子のなかった少女は、伴侶の一言でゆっくりと瞼を開けた。

寝起きでうるうると潤む瞳は、きらきらとした水晶の輝きを埋めた薄い水色。焦点の合わない瞳が、ぼんやりとクラウを見上げた。


「……いま、だんなさまからキスしてくださるといいましたか?」
「いや、ちゃんと起きれない子にはキスしない、って言ったんだよ」


些細な語弊を笑顔で訂正したクラウに、寝惚けたイアの瞳が大きく見開かれる。


「ちゃ、んと起きられたら口付けしていただけるのですか! 起きます! 今すぐ起きます! イアはちゃんと起きました!!」


ぱあっ、と人間で言うなら最高級の美貌を輝かせたイアは、クラウの膝から跳ね起きてその場に行儀良く『おすわり』した。

わくわく、とご褒美を待っている犬のような竜の様子に苦笑いしつつ、クラウはその頬に唇を落とした。


「はい、おはよう、イア」
「おはようございます、クラウさん!」


13/11/12

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