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パレード 4
* * *
消灯時間も過ぎた、深夜0時。そっと部屋を抜け出し、寮内に“隠された”会議室へ向かう。
既に夜も深い時間だからか、夕方一度払った瘴気邪気がまた廊下や階段を渦巻いていたが、軽く柏手で払って足早に目的地へ急ぐ。
場所によって濃くなったり薄かったりとバラつきのある瘴気だが、俺が目指した会議室の周囲の気は清浄だった。……当然か。この中で待っている筈の人は、方面は違えど俺の同業者である。
「……失礼します」
「おせえぞマツリ、5分遅刻だ」
部屋の中央に置かれたソファーの上、気怠げに脚を組み頬杖をかいていた人物が、そう心の狭い台詞を吐きながら振り返った。
月明かりの下でも分かる、絹糸のようにさらさらの金の髪と済んだ淡いアクアマリンの瞳。顔のパーツはひとつひとつがギリシャ彫刻のように整っており、そしてそれが黄金比のように小さな顔の中に収まっている。
軽口を叩くその声も、耳元で囁かれれば女性は皆腰が砕けてしまいそうな低く甘い美声。……まぁ、口を開けば口調は乱雑だし、残念な事ばかりしか言わないのだが。
日本人の父と英国人の母を持つというこの人が俺の先輩である“クロウさん”こと、天原玖郎(あまはら くろう)。表の顔は学園の生徒会長を務めている有名人である為、俺とはあまり表立って接触する事はない。……そのお陰で、この人のストーカーめいたセクハラメールは加速するのだが。
「すみません。会議室に向かう道すがら、逐一軽く払ってたんで」
「そんなこったろうとは思ってたがよ。でも、お前なら柏手で一瞬で払えんだろ」
「まぁそうですけど……」
呆れ半分といった苦笑いで首を振ったクロウさんに、口ごもりながら頷く。
柏手一度くらいでは流石に完全に浄化する事までは出来ないが、時間をかけずに処置出来るのが利点だ。
……彼には知られてはならない。相棒と寮部屋で油揚げ争奪戦を繰り広げた後、収集令がかかっていた事など忘れて部屋のソファーでうたた寝していた事など。
「……まぁいい。とりあえず座れよ」
俺がへらりと曖昧に笑うとクロウさんは微かにその整った柳眉を上げたが、幸いにも言及はせずに俺に席に着くよう示した。
言う通りにクロウさんの向かいのソファーに腰を下ろし、そのふかふかなスプリングに沈み込みながら彼を見返す。
ローテーブルの上にはティーポットと二組のカップが置かれており、片方のカップはクロウさんが手にして優雅に口をつけていた。
先輩に給仕をさせるのも何な為、自分用のお茶を自分で開いたカップに注ぎ口を付け……口の中に広がった風味に思わずずっこける。
13/2/7
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