愛しい色
口にするのは今更かもしれないが、雪羽は月代の髪に触れながらふと思った事を言った。
「……なぁ、月代の髪って染めてるのか?」
「ん?」
さら、と手のひらの中で短めに切り揃えられたアッシュグレイの髪を遊ばせながら、雪羽は月代の瞳を見つめ返す。
傷みもなく、さらさらとした手触りの良い毛先だ。ただ、その色は日本人に多い黒よりは少し薄く、墨に水を混ぜたような透き通った不思議な色合い。光に透かすと、キラキラと輝いて綺麗だ。
出逢った時から彼の髪はこの色だし、口にするのは今更過ぎる疑問かもしれないが。首を傾げて訊いた雪羽に、月代は小さく笑いながら応える。
「いや、これが地毛だ」
「そうなの?」
「あぁ。……もし染めているなら、生え際が黒くなっていてもおかしくないだろう? そんな所、一度でも見た事があるか?」
「あぁ……そういえば」
確かに言われてみれば、彼の髪は生え際まで綺麗なアッシュグレイだ。定期的に染め直してでもいない限り、染色した髪ではこうはならない。
毛先を弾いていた指で生え際近く、旋毛の辺りに触れれば、くすぐったいのか月代が夜色の瞳を細めて笑った。
「俺が言うのもなんだけど、月代も大概珍しい色だよな」
「そうかもな。だが、俺の親兄弟も同じ色だ。父はもうすっかり白髪混じりだがな」
「へぇ…」
初めて聞く話に、雪羽はぱちりと瞳を瞬かせながら頷いた。
さらさらと彼の髪を撫でながら、此方を見下ろす彼の瞳を見つめる。
「……髪も眼も綺麗だなんて、やっぱり月代はずるいな」
「ん?」
「言った事あるっけ? 俺、月代の眼も凄い好きだよ」
深い深い、夜の色。黒の中に藍を一滴落としたような不思議な色合いに見つめられるのが、普段口には出さないが雪羽はとても好きだ。
月代の深い色とは対照的に、薄く透明感のある硝子玉のようなの瞳。それを細めて笑った雪羽に、月代はいつものようにその目尻に口付けを落とした。
「ありがとう。俺も、雪羽の瞳が好きだ。……知っているだろうが」
「うん、それは知ってる」
「瞳以外の、すべても好きだ」
「……、それも、今は知ってる」
真っ直ぐな月代の告白に、頬を染めながらも雪羽は頷く。
雪羽を誤解させないように、と正直な気持ちを吐露するようにした月代は、恥ずかしくて心臓に悪い。けれど、素直に嬉しい。
髪を掴んだまま月代の頭を引き寄せ、耳元に唇を寄せると、ほんの小さな声で雪羽は言葉を返した。
「俺も好きだよ……」
……全部。
囁いた雪羽は、真っ赤になった顔を隠す為かぎゅっと月代の肩に額を埋め、満足げに唇を歪めた月代はその頭を抱え込んだ。
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月代の髪色がアッシュグレイだと、作者が忘れそうな話(笑)
今更だけど、月代は地毛です。黒をちょっと薄くしたようなグレー。似合ってるので、改めて染めてるのかとか訊くのをすっかり忘れていた雪羽ww
14/3/25
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