fish eye 金魚のお話。 「ほら、お前たち餌だぞー」 …いきなり食事中で失礼します。自分は金魚鉢の中に住んでいる、朱い金魚です。 ぱらぱらと鉢の中に適量の食事を落としてくれるのは、自分たちの主人のユキハ。人間の若い男の子で、高校生、っていう年頃の子供らしい、…と自分の相棒の黒の金魚が言っていました。 ゆらゆらと揺れる黒い尾鰭を閉じない瞳に捉えつつ、自分も食事の浮いた水面近くへと浮上した。 金魚鉢の外では、主人がにこにこと笑っている。 「いっぱい食べろよ、アカ、クロ」 はい、いつもありがとうございます、主人。 …あ、アカとクロっていうのは、自分たちの名前です。お察しの通り朱と黒の金魚だから、っていう至極捻りのない名前ですが、自分たちは割と気に入っています。分かりやすくて。 ちなみに自分たちのそのままな名前を付けたのは、ユキハじゃなくてもう一人の主人。 噂をすれば何とやら、食事をしながら水面からユキハを見上げると、すっと後ろから伸びてきた腕が彼の躰を引き寄せる。 「…月代」 振り返ったユキハが、ふわりと柔らかい表情で微笑む。 自分たちの名付け親で、縁日の夜店で自分を掬った当人でもある、ツキシロ。 自分たちの世話をする事はあまりないけれど、自分たちにとってはもう一人の主人だ。ずっとユキハの部屋にいる事も考慮に入れて。 後ろからユキハに腕を絡めたツキシロは、ちゅ、と軽く彼のこめかみに唇を落として笑う。 「アカとクロは元気なのか」 「うん、元気だよ」 お陰様で、元気ですよ。 水面で自慢の朱い鰭をひらひらと揺らしてアピールすると、ユキハが瞳を細める。 「縁日の金魚はそう長持ちしないのが通説なんだけど…、コイツらは二匹とも元気で良かったよ」 そりゃ、主人に愛情を持って育てて貰ってますからね。 真面目なユキハの世話は甲斐甲斐しく、食事も毎回残さずにお腹いっぱいになるような適量を与えてくれるし、金魚鉢の水が濁ればすぐに取り替えてくれる。 …それに、相棒もいるしね。 『…さっきからぶつぶつと、一匹で何を言ってるんだ?』 『わっ、クロ』 本日二回目の噂をすればのタイミングで、黒い尾鰭の相棒が自分の顔を覗き込む。 『いや……自分たちの主人は仲がいいなぁ、と』 不思議そうな顔をしているクロに、そう応える。 敢えて詳しい描写をする事は避けるけど、先程から自分たちの主人二人のじゃれ合いはエスカレートしている。 …ごちそうさまです。……いや、これはさっき貰った食事の話ですよ? ちらりと鉢の外を窺ったクロが、やれやれと鰭を揺らす。 『あぁ…。仲が良いのは何よりだが……ベッドでやればいい。人間には、都合が良い寝床があるのだから』 『あはは…』 ツキシロが色々と節操が無い人間なのは、二人が自分たちの主人になった日から知っているけれど。 苦笑いした自分の顔のすぐ側に、再びクロの瞳が寄る。 『な、何…?』 『……いや』 否定の言葉を口にしたクロは、けれどぐいぐいと自分に近付いてくる。 視界いっぱいに、クロの顔。ぱくぱくと開いた口元を、クロの口がぱくりと食んだ。 『えっ…!?』 『……、餌が付いていた』 ギョッとする自分を見て、クロは優雅に尾鰭を揺らして笑った。 …クロはそういうところはホント、主人にそっくりだと思いますよ。敢えてどちらの、とは言わないけどね! -------------------- 本編中で回収するのを忘れていた、二人が夏祭りで取った金魚たちの後日談。せっかくなので、みんな大好き動物視点でいってみた(笑) 二匹とも雪羽の部屋で、元気に仲良く過ごしております。金魚鉢という愛の巣でww アカはどちらかというと雪羽似、クロは月代似w 取った人物とは逆の性格ですね。そっちのが萌えるかと思って! ← 11/11/18 ≪ ≫ [戻る] |