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白花に溺れて(11年 ホワイトデー)

「ただいま〜…、って、うぉっ!?」


年度末に入り短縮運営となった授業をこなして寮に帰ってきた雪羽の瞳に飛び込んできたのは、部屋一面の白だった。

白、白、白。ふわりと鼻腔を擽る芳香は仄甘い。

部屋を覆い尽くす勢いで飾られているそれは、何百本もの白い薔薇だった。


「…な、何事…!?」
「…あぁ、お帰り、雪羽」


玄関でぎょっと立ち尽くす雪羽に、いつもと何ら変わりのない様子で言葉を掛けるのは月代。

部屋中を白薔薇だらけにした犯人は、最早この部屋の住人と言っても差し支えない彼の他にいない。

廊下の途中に鞄を放り投げた雪羽は、ソファーに悠々と座る月代に責め寄る。


「月代っ、アンタこれは一体何事…!」
「雪羽、今日は何日だ?」
「はっ?」


随分体格差のある恋人に襟首を掴まれた月代は、平然として言う。

雪羽はパチリと玻璃の瞳を瞬かせた。


「今日は、3月14日…」


3月14日、日本で言うところのホワイトデー。

日付を口の端に上らせた雪羽は、月代のシャツの襟刳りを掴んだまま、寮部屋のリビングを見渡した。


「…まさか、これ…」
「ホワイトデーのプレゼントだ」


お気に召さなかったか?、とやはり平然と何でもないように首を傾げた月代に、雪羽はがくりと脱力してうなだれた。

…ない。有り得ない。高校生のホワイトデーとして、これはない。

驚きがそのまま呆れと脱力となって訪れた雪羽は、勢いで月代の膝の上に乗り上げたまま、深くため息を吐いた。

…また一つ、ブルジョワと庶民の違いを思い知らされたというか、恋人が如何にぶっ飛んだ思考の持ち主かを再認識させられたというか…。

がっくりうなだれた雪羽に、月代は僅かに眉を寄せた。


「…花は気に入らなかったか?」
「気に入らないってか……まさかこんな手法でくるとは思ってなかったっていうか…」


雪羽が一ヶ月前のバレンタインデーに渡したものといえば、手作りのホットチョコレートとチョコチップクッキー。それだけだった筈だ。

ホワイトデーは三倍返しが何とやら、とはいえこれは本当に予想外だった。


「…ホワイトデーだから、白い薔薇なの?」
「あぁ。…それに雪羽は、赤よりは白の薔薇の方が好むかと思ってな」


そう言った月代は手近にあった白薔薇を一輪手に取り、丁寧に棘抜きされたそれを雪羽の黒い髪に挿した。

ふわりと広がる、薔薇の芳香。

…確かに、華やかな赤い薔薇よりは、清純な白い薔薇の方が雪羽の好みではある。

一応気にしてくれたのか、と雪羽は少し嬉しくなるが、悔しいので口には出さない。…おそらく、朱に染まった頬から全ては相手にバレバレであろうが。

そっと、髪に挿された一輪の薔薇に指先で触れた。生花の感触に、微かに瞳を細める。

──…薔薇の花言葉は、美、愛。その中でも白い薔薇の花言葉は、純潔、尊敬、そして……


「『私は、貴方に相応しい』…」


呟いた雪羽に、月代が夜色を細めて笑う。


「…可愛い雪羽、お前は俺のモノだ」


クス、と紅梅の唇が声を漏らし歪む。

引き寄せられた腰に、雪羽は苦笑いしながらも…その背に抱き付いた。


happy white day...















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遅刻ホワイトデー! …今年はやらないかも、とか言ってた白い日ネタですが、脳内に部屋を白薔薇で埋め尽くす月代さんが現れた為、急遽やる事に…w

月代、お前という奴は本当に…!ww そしてなんだかんだ満更でもなさそうな雪羽とは、やっぱお似合いのバカップルなんじゃないでしょうか(^q^)

09年に書いたバレンタインネタとリンクしていたり。時間軸的には、雪羽一年生月代二年生時の話ですね。


11/3/16

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あきゅろす。
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