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等価を捧げる

ふと、思った。自分は彼に与えられるばかりだ、と。


「…詩織さん?」


ふと俯いて黙り込んでしまった詩織に、どうしたの?、と顔を覗き込みながら訊いてくる歳下の恋人は、シャワーを浴びた後濡れたままにしていた詩織の髪を丁寧にタオルで拭いてくれていた所だった。

詩織が何か言った訳ではないのに、彼は甲斐甲斐しいくらいに詩織に優しい。

重い荷物を持っていたら必ず半分以上を持ってくれるし、淹れるのに失敗した渋いお茶も文句も言わず飲んでくれる。付き合う前から優しかった彼だが、付き合い始めてからは特に、だと思う。

柔らかいタオルの感触に包まれながら、詩織は此方を覗き込むソールの瞳を見つめ返す。


(僕は……ソール君に、何か出来てる、のかな)


こっそりと寮部屋のスペアのカードキーをくれたのもソールからだったし、キスをするのも、互いの躰に触れ合うのも、…抱き合うのも、大抵は彼の方から誘いをかける。

そう考えると、自分は本当に彼に対して何もしてあげられていない。そんな結論に至った詩織は生乾きの髪を包むタオルを剥ぎ取ると、ガバッと振り返って空いたソールの両手を握り締めた。


「ごっ、ごめんね!!」
「は? え、どうしたの?」


唐突な詩織の行動と脈絡のない謝罪に、ソールはぽかんとして詩織を見つめ返すが、僅かに瞳を潤ませた詩織は、何故か自らの考えで自らを追い詰めてしまっていた。

与えられてばかりで何も返せていない無駄に歳上の恋人など、彼に飽きられて当然なのではないかと。

ソールに直接言えば間違いなくあっさり否定されるだろう発想に一人焦った詩織は、せめて自分からも行動を起こそうと彼の両手をギュッと握り締め……瞼を伏せてさっと彼の唇にキスをした。

ちゅっ、と短い音をたて、ほんの一瞬だけ触れて離れた唇。

唐突な詩織の行動に呆気に取られていたソールだが、我を取り戻したその一瞬後にすかさず詩織をそのままソファーの上に押し倒した。

反転した詩織の視界で、微かに滲んだ彼の表情が愉しげに微笑む。


「どうしたの? 詩織さんからキスしてくれるなんて、珍しいね」
「……、だって、僕、いつもソール君から与えてもらってるばっかりだから……」


何故か既に半泣きの詩織の様子に、彼の中での唐突な発想を知らないソールは不思議そうな表情をするが、組み敷いた躰を離そうとはしない。

まだ生乾きでしんなりした紅茶色の髪を優しく撫で、詩織の次の言葉を待つ。


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あきゅろす。
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