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甘く、焦げた(13年バレンタイン)

ソールが生徒会の仕事を終えて部屋に戻れば、普段はほぼ使っていないキッチンの方から何だか芳ばしい匂いがしてきて首を傾げる。

恋人の詩織はこっそり渡した合い鍵でいつでもこの部屋に来れるようになっているから、一人部屋であるこの寮部屋に人の気配があっても不思議はないのだが、彼がキッチンにいるとは珍しい。ソールもそうだが、詩織も料理はほとんど出来ないというのに。

部屋に漂う甘く焦げたような匂いに軽く鼻をひくつかせ、ソールはキッチンを覗き込む。


「詩織さん? 来てたの?」
「っ!? えっ、ソールくん!? あれ、今日は生徒会で遅くなるって……」
「うん。結構会議が長引いて、それで今帰ってきたところ」
「えっ、もう10時過ぎてるの!?」


何やら慌てた様子で振り返った詩織に壁の時計を示しながら答えれば、時間を確認した彼はギョッとしたように声をあげた。

何かに夢中で、時間を確認する事を怠っていたのか。尤も、その“何か”というのも、此処までくればソールにも察しが付く。

詩織は背に隠そうとしているらしいが、その甘い独特の匂いは隠す事が出来ないし、大々的に広げられているボウルや泡立て器などの道具は隠しきれていない。

それでもソールは敢えて、自分に出来る最大限の笑顔で慌てふためく詩織に問い掛ける。


「……それで、何してたの? 詩織さん」
「あ、え、え…っと……」


胡桃色の瞳が、まるで悪戯が見付かった子供のようにうろたえてさまよう。

諦め悪く器具を後ろ手に隠そうとする詩織に近付き、彼の退路を塞ぐように目の前に立つと、彼が背後に隠したボウルを取り上げた。


「あっ」
「……チョコレート、だよね、これ」
「う……」


多少焦げ臭いのが気になるが、ボウルに入った茶色いものは、紛れもなくチョコレート。半分が溶け、もう半分がボウルにこびり付くように焦げ付いているという惨状にクスリと笑うと、詩織の表情が泣きそうに歪んだ。


「詩織さん?」
「っ、ソールくんの意地悪……」


今更な言葉を口にした詩織がボウルを取り返そうとした為、ソールは身を捩ってそれを避ける。

身長差を利用してボウルを片手で頭上に掲げ、もう片腕で彼の躰を抱き寄せた。


「うぅ……」


ソールの腕の中で複雑そうな表情で唸る詩織にまた小さく笑い、彼が頬に付けたチョコレートを舐め取る。


「顔にチョコ付いてる」
「えっ……ん」


ぱちりと大きく見張られた瞳が可愛くて、唇の上にも触れるだけのキス。

腕も怠くなってきたので掲げていたボウルを下ろすが、抵抗する気力は無くしたのか詩織はソールの腕の中で大人しくしている。


「チョコレート、作ろうとしてくれたんだ?」
「……うん。でも、なかなか上手く出来なくて」


うなだれる詩織に、ボウルの中の溶けたチョコレートを見る。

何故か焦げ付いてるチョコレートを見て小さく笑い、指でそっとそれを掬い上げる。


「ちょっと焦げてるけど……別に食べれなくはないよ」
「えっ」


指で掬ったチョコレートを口に運び、クスリと笑うと詩織が目を見張った。

その小さく開いた唇に自分の指を突っ込むと、ぽかんとしていた彼が少し困った顔になる。


「……やっぱり、焦げてて苦いよ」
「そう? 甘いよ」


貴方が、俺の為に作ろうとしてくれたものなんだから。

もう一度指でチョコレートを掬い、わざと紅い舌を覗かせるようにして舐め取ると、ソールの意図が伝わったのか詩織の頬がじわじわと朱に染まった。


「っ、ソールくん……」
「ちゃんと最後まで、美味しく食べるから」


視線はしっかりと詩織を捉えて。

囁いた唇はまた、甘く焦げたチョコレートを舐め取った。















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13年バレンタインです。ソールと詩織先生でいちゃいちゃww

本編でも出ましたが、詩織先生は料理は出来ない人です。ボウルに入れたチョコレートがどうやったら焦げるのかが疑問なんですが……、直火にでもかけたんでしょうか?(^^;)

とりあえず今年のバレンタインは、指ふぇら美味しいよ、という事でFAですww ふふふww


13/2/14

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