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溶ける蜜時

キスの日!



「…ただいま、月代」
「おかえり」


いつものように一日を過ごして部屋に戻れば、最早一緒に住んでいると言っていい恋人が甘く微笑む。

雪羽が玄関で靴を脱いでいるうちに側までやって来た月代に、雪羽はぱちりと玻璃の瞳を瞬かせた。


「月代、どうした? 出掛けるの……んっ」


玄関前までやって来たのだから、よもやこれから出掛けるつもりなのだろうかと躰をずらそうとすると、するりと背中に腕を回されて抱き寄せられ、軽く顎を持ち上げられて口付けられる。

帰って来て早々の彼の唐突な行動に驚くが、結局の所心底彼に心を預けている雪羽が本質的に月代を拒む事など有り得ない。驚きながらも、素直に瞼を下ろした。

柔らかく唇を食むように重ねられる彼の唇。ゆるりと緋を裂いて口腔内に押し入って来ようとした舌も、薄く口を開いて受け入れる。


「ふっ……ぅん」
「……はっ」
「…はぁっ…」


どれくらいそうしていたのか。そこまで長い時間でもなかった筈だが、そう短い時間でもなかった。

大人しく月代の口付けを受け入れていた雪羽は、唇を離されるととろんと蕩けた玻璃の瞳で月代を見上げた。


「……いきなり、どう…したの?」


わざわざ、雪羽がリビングまで行く時間すら待たずに、こんな玄関口で。

ゆるりと瞬きながら大人しく月代に身を預け、彼を見上げる。

そんな雪羽の柔らかな頬に指を滑らせる月代は、甘く微笑みながら口を開いた。


「…今日は、キスの日だそうだ」
「? そう…なの?」


きょとんとして首を傾げる雪羽が可愛らしく、ふわりと頭を撫でると猫のように目を細める。

小さく笑みを零した月代は、未だ玄関口にいた雪羽を横抱きに抱え上げ、リビングのソファーの上、自分の膝の間に向かい合うように抱き込む。

宥めるように髪を撫で、頬を撫で。思うままに甘やかしてやると、雪羽はくすぐったそうに身を捩りながら瞳を甘く蕩かした。


「月代」
「…ん、雪羽」


囁くように愛しい相手の名前を呼び、再びその甘い唇に口付ける。

触れるだけの戯れのような口付けから、貪るような欲を含んだ口付けまで。大人しい雪羽をいいことにゆっくりとその緋色を味わっていると、不意に腕の中の彼が身じろぎした。


「あ、月代…」
「…どうした?」
「そろそろ、夕飯作らなきゃならないんだけど……」


雪羽が見上げたのは、壁にかけられた時計。短針は円の下方を指しており、帰宅から暫しの時間が経っている事を示していた。

…別に、月代と戯れ合って過ごすのは吝かではない。しかし、この部屋の家事全般を担っているのは雪羽だ。雪羽が準備をしなければ、いつまで経っても夕食にありつく事は出来ない。

が、いつもならばそう言えば放してくれる筈の月代が、身を捩っても腕を解いてはくれない。


「月代?」
「今日くらいは…、何事にも邪魔されずに雪羽を味わっていたい」
「え…」


未だ、口付けの余韻でしっとりと濡れた緋。長細い彼の指先がするりと其処をなぞり、雪羽はぱちりと瞳を瞬かせた。


「寮の食堂から出前を届けさせよう。…たまには構わないだろう? 雪羽」
「えっ、あ、うん。いいけど……んっ」


心配事を一つ潰し、言葉通り何にも邪魔される事なく可愛い恋人を味わおうと、また口付け。


結局、二人が“夕食”を取るのは、随分後の事になってしまいそうだ。
















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キスの日月雪。イベント事にはもってこいの安定の甘々夫婦ですw

時間軸的には月代三年、雪羽二年。そろそろ月代が引継ぎを終わらせて会長じゃなくなくってる頃ですかね?

…惣院の生徒会の任期について最初はあんまり考えて無かったんですが、雪羽が転校してきた頃から会長で、企画の番外でちょろっと出した4月頃も会長なので、多分5月の頭頃に引継ぎがあるんじゃないかと思います。何か話が逸れた(笑)


12/5/23

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