愛情特効薬 3
右手が空いている寂しさに、なんとなく手のひらを開いたり閉じたりしていると、段々と眠気が襲ってきた。
これから食事をするのだから、と完全には眠りに落ちないようにと何とか意識を繋ぎながら、けれどやっぱりうとうとと意識を溶かしていると、やがてドアが開いて月代が戻ってくる。
ゆるりと瞼を開くと、その手には湯気を上げる土鍋。どうやら卵粥を作ったらしい。…とりあえず見た目は、綺麗だ。
「…ん、大丈夫だった?」
「…、あぁ」
「途中、変な物音してたけど…?」
一瞬の沈黙に不穏な気配を感じ、重ねて訊くと、月代の顔が多少気まずげに歪む。
「…卵を割るのに少し、手間取っていただけだ」
「……そっか」
この男、マトモに卵も割った事なかったのか…。少々遠い目をして、雪羽は思う。
殻でも混入していないかと少々心配になるが、自分に甘い月代がそんな物を持って来る筈がない事くらい雪羽には分かっていた。…但しキッチンがどうなっているかは、定かではないが。
「味見はした。食べられる味には、なっている筈だ」
「…うん、ありがとう」
湯気をたてる土鍋をベッドのサイドボードに置いた月代は、横になった雪羽の背の後ろに腕を差し入れ、甲斐甲斐しく抱き起こした。
柔らかいクッションに背をもたれかからせ、雪羽は月代を見返す。
「…食べられそうか?」
「…うん」
もう一度雪羽の体調を気遣うように訊き、月代はレンゲを手に取った。卵粥を掬い上げ、ふぅと息を吹きかけて軽く冷ます。
そのままレンゲを口元に持ってこられ、雪羽は素直に口を開けた。適温に冷まされた卵粥をゆっくりと呑み込む。味見をしたと言っていたのでさほど心配はしていなかったが、塩加減も悪くない。
ゆるりと表情を緩め、月代を見上げた。
「…ん、おいしいよ」
「…良かった」
ほっとしたような月代の表情が珍しくて、雪羽は小さく表情を緩めた。
その後も甲斐甲斐しく一口ずつレンゲを口に運んでくれた月代に、時間をかけて卵粥を完食し、校医の置いて行った薬を呑む。
「……粉薬、苦いから嫌いだ」
「口直ししてやろうか?」
水を飲みながら顔をしかめた雪羽に、月代が言う。
紅梅の唇を僅かに吊り上げる彼が何を考えているのか察した雪羽は、ゆるゆると首を振った。
「…風邪、移るからいいよ。大丈夫」
「…それは残念だ」
「……ばか」
おそらくはキス…それも深いものをするつもりだっただろう月代がクスリと笑って言い、雪羽は風邪のせいだけでなく頬に熱が集まった気がした。
起こした上半身を、再びベッドの上に横たえる。
「…また暫く寝るといい」
「……うん」
「心配しなくても、側にいる」
無意識に、縋るような目で見上げていたのだろうか。
ベッドから出した雪羽の右手をそっと握り、月代はただ優しく微笑んでくれた。
もう片方の手で優しく額を撫でてくれる月代に、雪羽は気怠い瞼をそっと下ろす。
こんなに優しい恋人が看病してくれているのだ。きっと、また目が醒める頃には体調も良くなっているのだろう。
絡み合う指の温もりに意識を溶かし、雪羽はまた眠りに落ちた。
「…早く、よくなれよ」
囁く声に、夢の中で返事を返して。
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王道の看病ネタを、月雪夫婦で! …と思って書き出したら、思ったよりも長めになったSSでしたw
ほのぼの倖せな感じなお話でしたが、この後元気になった雪羽はキッチンの惨状を見て思わずため息を吐くハズ(笑) 完成品はそれなりの仕上がりに出来たけど、周りは大惨事だよ! ←
ふぅふぅしてあーんされる事に、最早なんの疑問を覚えない雪羽は完全に旦那に甘やかされ慣れてますねww
11/12/24
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