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愛情特効薬

異変に気付いたのは、抱き締めた躰の異常な熱さから。


「…雪羽?」
「……ん」


とろりと蕩けた玻璃色の瞳、ほんのりと朱く上気した頬。

ベッドの上で見せ付けられれば確実に男の理性を削るそれだが、雪羽が別に欲情の為そうなっている訳ではないのは見れば分かる。

手の甲で上気した頬に触れ、その熱さに眉根を寄せた。


「…熱いな」
「ん…」
「これは8度近いんじゃないか? 体温計は何処だ?」
「…ん、薬箱の中」
「持って来る」


ぽうっとした瞳で月代を見上げされるがままに任せている雪羽は、部屋を出る月代の背中に瞼を伏せた。

全身が怠くて重く、何もする気が起きない。

すぐに戻って来た月代が体温計を脇に挟ませるのを黙って見、やがてピピピと音を立てた体温計を引っ張り出す。


「37度9分…」
「…8度、はないみたいだな…」
「大して変わらないだろ。今日は安静にしておけ、…教師に休む旨伝えておく」
「…月代が? いいよ、友達にメールしておくから…」


生徒会長の月代が、学校では特に接点がある訳ではない雪羽の欠席を連絡するのは不自然だ。

熱に浮かされた頭でもそれくらいの判断は出来る雪羽は、枕元の携帯電話を取ってとろとろとメールを打った。熱を出したので休むという内容を、達也と玲それぞれに送信する。


「…寝ていろ」
「…うん」


いつもよりも優しい力で、起こした半身をシーツの上に押し付けられる。

覗き込む夜色が心配するような色を宿していて、雪羽は僅かに表情を緩めた。


「…おそらく風邪だろうが…症状は?」
「熱で躰が怠くて、あとちょっと…寒い。…頭もちょっと、痛いかも」
「分かった、寝ていろ。…校医を呼んでおくから」
「ん…」


雪羽の布団をかけ直してやり、再び部屋を出ようとした月代の背を、なんとなく寂しさを感じて手を伸ばし引き止める。

シャツの裾をつん、と控えめに掴んだ雪羽を、振り向いた月代が優しく微笑みながら見下ろす。


「電話を掛けに行くだけだ。直ぐに戻る」
「……うん」


さらさらと、優しく頭を撫でられて。

なんとなく気恥ずかしくなって手を離すと、額に軽く唇を寄せられる。


「…ぁ」
「……やっぱり、熱いな」


囁いた月代が躰を離し、電話をする為に部屋を出て行く。

…此処で掛ければいいのに、とも思うが、話し声が気に障るかもしれない事を気にしてくれたのだろう。けれど月代の声が不快になる事だなんて、雪羽には有り得ないのだが。

気怠い躰を持て余し、雪羽ははぁと息を吐く。

何も言わずとも、心配してテキパキと手配してくれた月代を有り難く、また嬉しく思う。…きっと、人の看病だなんて慣れていないだろうに。


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