良妻の条件
いい夫婦の日
『…今日は、仕事で少し、遅くなるかもしれない』
放課後。寮の自室に帰宅した雪羽がいつものように夕食の準備をしていると、不意にポケットに入れた携帯電話が着信を伝えた。
取り出してみると、其処には一緒にいる時間が長い故に滅多に電話など掛けてこない恋人の名前が表示されていて、多少驚きながらも通話ボタンを押した。それからいくつかの言葉を交わしてからの、この一言。
珍しいなと思いつつ、わざわざ報告してくれる月代に表情を緩めつつ頷いた。
「分かった。夕飯はいるの?」
『あぁ。…ただ、俺は遅くなるだろうから先に食べていていいぞ』
「うん」
頷きながら、雪羽はキッチンの壁に掛けられた時計を見上げた。…まだ六時前だ。月代はいつ頃帰ってくるのだろう。
「遅くなる、って具体的には何時くらい?」
『九時…か、終わらなければ十時くらいか』
「結構かかるんだな」
『…何処ぞの馬鹿が今日提出の重要書類を無くしてくれてな、役員全員で尻拭いだ』
やれやれ、といった調子でため息を吐く月代に、雪羽も肩をすくめる。
「…分かった。仕事頑張れよ」
『あぁ。……愛してる、雪羽』
「っ…!」
電話口で甘く囁き、ちゅっ、とリップノイズまでくれた月代に、思わず一人自室のキッチンで赤面する。
「…もっ…、いきなり何だよ莫迦……」
『嘘偽り無い気持ちだ。俺が伝えたい時に伝えて構わないだろう?』
電話越しに、甘く掠れた囁き。
それは耳元で囁かれる声によく似ていて、雪羽はますます頬を熱くした。
「……もう」
『くくっ…。…では、また後でな、雪羽』
「…うん」
笑い声と共に通話を終えようとした月代の耳元に、滑り込ませるように一言。
「……大好きだよ、月代」
小さく息を呑んだ声とほぼ同時に通話を切り、耳に聞こえる音は無機質な電子音に切り替わった。
ふ、と雪羽は息を吐き出して時計を見上げる。…九時、もしくは十時くらいに帰ってくるのだとしたら、作り始めるのは今すぐでなくとも構わないか。
先に食べていていい、と月代は言ったが、彼を待つも待たないも雪羽の自由だ。
「…お腹空かせて帰ってくるだろうから、がっつりしたの作っておこうかな」
呟きながら小さく微笑んで、レシピ本を捲った。時間があるから、手の込んだ料理に挑戦してみてもいい。
月代が頑張っているのだから、自分も頑張らないと。
冷蔵庫の中には何があっただろうか、と確認しに立ち上がった雪羽の表情には、知らず笑顔が浮かんでいた。
(大好きな人が喜ぶ顔が見たいから)
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いい夫婦の日!(笑)
旦那さまの残業を健気に待つ良妻雪羽のお話ですw
月代は雪羽に甘いから自分が遅くなる日は「先に食べてていい」って言うけど、雪羽も月代に甘いからしっかり待ってて一緒にご飯を食べます。いい夫婦いい夫婦(笑)
雪羽は元々料理が出来たけど、月代の事を考えるようになってからレパートリーが広がったんだろうな、と思うw やっぱり料理は誰かの為に作ってこそ上達しますよねv
11/11/22
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