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ミルククラウン

「…雪羽」


区切りの良いところまで書類をまとめ終えた月代が書斎からリビングへ続くドアを開けると、ソファーの上で膝を抱えた雪羽がマグカップを手のひらで包み込んでいた。

ふわりと湯気をたてるカップを満たしているのは、コーヒーでも紅茶でもなく、白色のホットミルクだ。


「ぁ、月代…。仕事終わったのか?」
「あぁ、とりあえず一区切りだ」


顔を上げた雪羽が訊ねるのに応え、月代は二人掛けのソファーの空いたスペースに腰を下ろした。

もう夜も遅いのにわざわざリビングのソファーで待っていたという事は、就寝時間を揃えたいが故なのだろう。そんな事口に出しては言わないくせ、雪羽はその行動が本当に健気で可愛らしい。

さらりとしたその黒髪をよしよしと撫でてやると、雪羽は何も言わずにその透き通った玻璃の瞳を細めた。


「…随分と、可愛らしいものを飲んでるんだな」
「…あぁ、これの事?」


彼が手のひらで包み込んだ、ほの甘い香りをたてるホットミルク。

小さく笑いながらカップに口を付けた雪羽は、ふうっと白い水面に息を吹きかける。


「寝る前にカフェイン取るのもどうかなぁ、って思ったからさ」
「…まぁ、確かにな」


夜更かしの供には欠かせないカフェインだが、反対に早く寝たい時には敬遠した方が無難であろう。

ふうふうとカップに息を吹きかけながら口を付ける雪羽の仕草が可愛く、月代はクスリと笑い声を漏らす。


「ホットミルクは好きだけど、この上に薄く膜が張るのが気に入らないんだよなぁ…」
「口に張り付いたりするよな」
「うん。……あ」


ちびちびとホットミルクに口を付けていた雪羽が、不意に月代を振り向いて目を丸くした。

何かに気付いたような雪羽に小さく首を傾げると、申し訳なさそうな顔をした雪羽が抱えた膝を床に下ろす。


「…ていうかごめん、気が効かなくって。月代も飲む? 取ってくるよ」
「いや、大丈夫だ」


そんな事を気にしていたのか。

雪羽とホットミルクという可愛らしい取り合わせに目を引いていただけで、別に催促をするつもりで眺めていた訳ではない。

腰を浮かしかけた雪羽の腕を掴み止めると、戸惑ったような顔のまま再びソファーに座る彼に顔を近付ける。


「…月代?」
「俺は、此方だけで構わない」


言いながら近付けた顔。ゆっくりと瞼を下ろす、玻璃色の瞳が視界に映る。

触れた緋色は温かく…ほの甘かった。


「…ん」


啄むように唇を食んでやると、鼻にかかったような小さな声が雪羽の喉から漏れる。

幾度か角度を変えてその感触を楽しんでから唇を離すと、は、と甘い息が口元をくすぐった。

こそばゆいその感触に月代はクスリと笑みを零して、ぺろりと自らの口元を舐めた。


「…ご馳走さま」
「……ばか」


白い頬をすっかり赤くして呟いた雪羽は、その顔を隠すようにマグカップを口元に寄せた。












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これから本格的に寒くなっていくらしいので、温かい話を目指してみました! …いえ、寧ろ通常運転ですね ←

雪羽の部屋の書斎は、すっかり月代の仕事部屋になっています(笑)


薄衣さんは温かい飲み物が好きですv 淹れるのも大好きですvV これから寒くなって、温かい飲み物でほっこりする季節になりますね…w


11/10/26

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