雨音
とある休日。窓の外はすっかり雨催いだ。
別に出掛ける予定がある訳でもなく、洗濯物も昨日粗方片付けてしまったので問題はないが、雪羽はぼんやりと窓の外を見上げた。
「……雨、凄いな」
「…そうだな」
ソファーに座る月代が雪羽の呟きに相槌を打ち、ぱらりと雑誌のページを捲る。
二人きりの部屋の中に響くのは、ページを繰る軽い音と、窓を叩く雨音だけ。
玻璃色の瞳は一瞬だけ月代を映し、また窓の外を見上げる。
「……外、少し寒そうだな」
「…そうだな」
硝子一枚を隔てた向こう側は、まるで別世界のようで。
戯れに透明な硝子に指先で触れれば、ヒヤリと冷たい感触が体温を奪う。
ぼんやりと窓の外、地を打つ雫を見つめ続ける雪羽に、雑誌を傍らにおいた月代が声をかける。
「…雪羽」
「………」
「構って欲しいのなら、こっちへ来ればいい」
二人だけの空間。月代から離れた場所にぼんやりと立ち尽くす雪羽。
月代がゆるりと唇を歪めながら、溺愛して止まぬ恋人を膝上へ呼ぶと、頬をほんのりと鴇色に染めた雪羽は何も言わずに彼の足の間に腰を下ろした。
…珍しく、月代の胸に背を預けるようにして。
「………」
相変わらず何も言わない雪羽は、月代の喉元にさらりとした彼の髪が触れるようにぐりぐりと頭を押し付け、月代はこそばゆさに瞳を細めながらもその躰を後ろから包み込むように腕を回した。
「…、珍しいな」
関係の“きっかけ”から、向かい合う姿勢をとる事が多い二人。
こうして背中から包み込むように彼を抱き締めるのはまた暫く振りな気がして、月代はちょうど良く顎の辺りにある雪羽の耳元に囁いた。
くすぐったそうに頭が揺れ、けれど振り返らずに雪羽は言う。
「…雨の音って、心臓の音と似てる」
「…?」
「……こうやって後ろから抱き締められてると、背中に月代の鼓動を感じられるから……」
だから今日は、このままがいい。
蕩けそうな柔らかい声で言った雪羽は、緩やかに鼓動を刻む月代の左胸にその背を押し当てながらゆっくりと瞼を閉じた。
「…………」
「…………」
とくとくと命を刻む鼓動と、とんとんと窓を叩く雨と。
雪羽は、時折不思議な感覚でものを言う。
(雨の音、か…)
雪羽の躰に回した腕を、その左胸に押し当てて。
その音色に耳を澄ますように、月代も静かに瞼を閉じた。
雨の音と、貴方の鼓動の音だけの空間
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なんというか、静かで電波な話(笑) フィーリングで書きました。考えるよりも感じて下さい(爆) ←
雪羽は時々よく分からない事を言い出します。そういう時は、訳もなく甘えたい時だったりします。素直に甘えさせてあげましょう(笑)
雨の音と鼓動って、別に似てはないと思う ←←
11/9/24
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