market 2 * * * 惣院学園のある山から車で50分程。 麓の住宅地唯一のスーパーであるらしい此処の週に一度の特売日、とくれば。 「……戦場、だな」 「…ついて来た以上は一緒に戦ってもらうからな、月代。カゴ持って」 「…あぁ」 隣の月代はこの勢いに若干引いているようだが、雪羽はもう構っていられない。 雪羽とて、この戦場を掻い潜り戦利品(食材)を手に入れなければならないのだから。 持てる量にも、点数制限の商品的にも、頭数があるのは有利だ。 「まずは卵行くぞ。お一人様一点限りタイムセール、一パック75円」 「…凄い人波だな…」 地元の主婦と言う名の猛者たちの群れに、思わずと言ったように呟く月代。 彼女たちが歴戦の戦士であると悟ったのか、月代の表情が引きつったが、雪羽はそんな彼の背を叩いた。 「体格はアンタの方がいいだろ、行くぞ!」 「あ、あぁ…」 戦場へ飛び込んで行く雪羽を、一人で行かせる訳にはいかない。 押され、揉まれ、時に攻撃されながらも、経験値不足を持ち前の上背で補って何とか雪羽と共に卵をゲット。 雪羽と卵を離さぬように再び揉みくちゃにされながら人混みを抜けると、やっとため息を吐く。 「…凄いな、此処は…」 「凄いだろ? …主婦って、マジで日本最強の生物じゃねえの…」 同じくため息を吐きながらも、雪羽は次の獲物を探していたらしい。 その瞳は、彼が最強と称した猛者たちと同じハンターの瞳だ。 「次っ、野菜!」 「あ、あぁ」 その後戦場を駆け回る雪羽に付き合い、野菜、肉、魚、その他カップ麺やお菓子類など、様々な食材を獲得して行った。 …たった20分程で、経験値を大分稼いだような気がする。 「…月代、大丈夫?」 会計を済ませてきた雪羽が、出口で珍しく疲れた顔をする月代を心配そうに見つめた。 「あぁ…、確かに此処は、寮内とは訳が違うな…」 「な?」 日本の主婦が、あんなにもアグレッシヴな生き物だとは思っていなかった。 尊い戦利品を詰めたバッグを雪羽の手から取り上げながら、月代は小さくため息を吐く。 「…でも、食費にいくら掛かっているかは知らないが、それなりに補助は出しているだろう?」 「え?」 「……お前の口座に、毎月振り込んでいるだろう?」 雪羽の部屋で生活し、雪羽の作る食事の世話になる事も多い月代。 食材費がいくらになっているか月代は知らなかったから、毎月適当な額を雪羽の口座に振り込んでおいた筈なのだが。 「…あのよく分かんない振込、アンタだったんだ…。…不気味だから手付けてなかったや…」 「……」 一瞬きょとんと眼を見張った雪羽は、謎が解けたというような表情でカリカリと頬を掻いた。 「…でもあれ、食費にしちゃ多すぎだから。俺結構節約してるから、ウチからの仕送りだけで余裕で二人分賄えてるよ?」 「……だからと言って、お前に全額食費を払わせる訳にはいかない。お前の親御さんがお前の為にくれたものだろう」 「んー…」 そう言った月代を見上げ、雪羽は考えるように首を捻った。 「…じゃあ、食費にかけた分レシート切って帳簿付けるから、その半額貰う」 「…だが俺の方が、お前より食べる量は多いだろう」 「そこまで言ってたらキリないよ。大丈夫、今までだって余裕で賄えてたんだから。そんな細かい事気にしなくても」 軽くそう言う雪羽に、月代はまだ釈然としない顔をしている。 「…そんなに気になるならさ、こうやってたまには、一緒に買い物に来て手伝ってよ。それだけで充分だよ」 「……だが、」 「アンタの飯作るのだって、俺は結構楽しいんだから」 まだ何か言いかけた月代の言葉を遮り、小さな声で、けれどはっきりと言う。 夜色の瞳が微かに見張られたのに、雪羽は先に車に向かって歩き出す。 (今日は、月代の好きなモノを作ろう) 頬をほんのりと染めながらそんな事を考える雪羽の背に、出遅れた月代が追い付くのもすぐ後の話。 ------------------ こういう話って夫婦っていうか、結婚生活ってカンジの話ですよね!(笑) なんかベクトル間違ってる気がしないでもない!ww 雪羽の「庶民思考なので惣院の坊ちゃんたちからはちょっと浮いたトコロも」、って設定があんまり本編では出てなかった気がしたのでこんな話を。 …でも庶民の割に、月代の分の食費については頓着してない雪羽w 自覚はないけど、プロ主婦並みにやりくり上手いので不自由感じてないんです(笑) 卵75円は地元の底値(笑) でももっと安いトコはもっと安いんだろうなw …タイムセールで行列に並ばされるカンジで、わたしが行く時間では特に戦争は起こってませんww ← セールに挑む主婦って、戦闘力が高過ぎてまじ敵う気がしないwww テレビのめっちゃ安いスーパーの特集とか、まじ戦場www 11/9/14 ≪ ≫ [戻る] |