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運命論者が、囁いた

美船高校図書館の二階の最奥。専門書の本棚ばかりが並ぶそこは、普段からほとんど生徒が訪れる事はない。

そんな忘れ去られた場所の片隅にある、読書兼作業用の机。…そこが、高校に入ってからの俺のお気に入りのサボり場所の一つだった。




昼休みもそろそろ終わり告げるという頃、俺はいつものように図書館へ足を踏み入れた。

図書館にいた数人の生徒がドアを振り返り、俺の姿を確認するなり視線をそらした。…いつもの事だ。

俺を空気のように扱う生徒たちの間をすり抜け、半吹き抜けのようになった二階への小さな階段を上がる。古い、本の独特の香りが鼻を霞めた。

通い慣れた本棚を間を歩く。キシキシと頼りない音がする床も、本の香も、何だか俺は気に入っていた。

本棚の一番奥、いつもの場所へと続く角を曲がると、見えた景色はいつもと違っていた。


本棚と本棚の間に、一人の男子生徒。…図書館の常連ならこの近くには近寄らない筈だから(俺の巣であると知れわたっている)、調べものでもしにきた生徒か。

真っ黒な髪をした見た目大人しそうなソイツは、本棚の一番上を見上げ、必死に爪先と右手を伸ばしていた。…それでも、指先は最上段にかすってもいないが。


「…ウゼェな」


小さく呟く。ソイツには聞こえてはいないらしい。

もうすぐ昼休みも終わるから、その頃にはソイツもここを去るだろうが、俺はいつもの“俺の場所”に他人がいるという事に苛立ちを覚えた。


「…オイ」
「…ぁ」


態と足音をたてるように近付き、小さなソイツに声をかける。

振り向いた瞳は、大きく黒目がちでどこか水っぽかった。…それ以外は、特別目につく所もない平凡な面立ち。

なのに俺を見てコトンと首を傾げる仕草が、酷く可愛らしいものに映った。

…気付けば、俺はソイツが背伸びしていた本棚に手を伸ばしていた。


「……どれだ?」
「え…?」
「取れねぇんだろ?」


口から溢れた言葉に、俺自身も驚く。
ソイツも一度目を丸くした後、少し申し訳なさそうに答えた。
「ぁ…、すみません、ソレです」


華道の何とかとか書かれたソレを渡してやる。…そんな一連の行動が、俺には全くの予想外だった。

自分は、知らない相手にこんな事をしてやる人間だったろうか?


「あっ、あの…、ありがとうございます」


ソイツの後ろに立ったまま本棚に手を伸ばしていたから、ソイツは俺の腕の中にいるような姿勢になっていて。

そんな中から見上げられ、はにかむように微笑まれて、心臓が跳ねた。


──何だ、コレ……


平凡な面立ちだと、さっき認識したばかりのハズだ。それなのに、何故。

何故、たまらなく可愛いなどと、感じてしまうのだろう。

俺がその笑顔にリアクション出来ずに止まっていれば、どこか遠くでチャイムの音が聞こえた。…五限開始5分前の予鈴だ。


「あ、授業始まってしまいますね…。…では、本当にありがとうございました」


呟くように告げて、ソイツは俺の腕からするりと抜け出て。一歩行った場所で、頭をぺこりと下げてまた微笑んだ。

…心臓が、また跳ねた。



…それが、『仲村唯人』の存在を知った日の事。

俺が髪を銀にする、一週間前の事だった。







ありきたり、龍治視点の出逢い兼自覚話。出逢いは図書館だったらしいです(笑)

ちなみに唯人はそんな事は知りません。
この時の龍治の髪は銀ではなかったし、[神龍]の噂も聞いた事がなかったので、唯人は彼をただの親切な美形先輩だと思ってます(笑) 当然、再会した後も気付いてません。

どっかで気付かせるエピソードいれるかもしれないけどね。まだ予定は未定だから ←


08/2/26〜3/11

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あきゅろす。
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