ジプソフィラ
4
「他にはどうする?」
「んー、射的やる? それともたこ焼きとか焼きそばとか買って食う?」
月代の手元の金魚を見やりつつ、軽く伸びをして。食べ終わったりんご飴の割り箸をごみ箱に放りながら言えば、月代が振り返る。
「雪羽はどうしたい?」
「俺?」
ぱち、と玻璃の瞳を瞬かせる。今日の月代は、雪羽に対してとても甘い気がする。
…まぁ、普段から月代は雪羽に甘い方(その分、傲慢な部分もある)だが、今日の彼は本当に優しい。夜店で奢ってくれたり、荷物を持ってくれたり、…雪羽の希望を聞いてくれようとしたり。
「雪羽、どうしたい?」
「え、あ、うん。…腹減ったから、何か食いたい…かな」
「そうか。たこ焼きか、焼きそばか? …あぁ、向こうに焼き鳥もあるみたいだぞ」
左右の道に立ち並ぶ夜店の看板を見つつ言う月代を見て、ぼんやりと思う。
(…なんつーかホント…、ムカつく程の男だよな…)
ムカつくくらいの、“イイ男”だ。
…先ほどからちらちらと、女の子たちの視線が彼を追い掛けているのに気付いていた。彼にエスコートされたい女の子は、それこそ山のようにいるんだろう。
(…俺は、そんなコイツの“モノ”)
だからこそ、彼の隣に立っていられる。
この感情は、何だろう。自虐にも似た優越感なのだろうか。
そこまでつらつらと考えていれば、返事をしない雪羽に焦れたのか、月代が雪羽の額を小突いた。
「…おい?」
「…あ、ごめん。何食いたいか…だっけ、…うーん、腹減ってるしどれも美味そうなんだよな…」
きょろきょろと屋台を見渡しつつ、悩むよう首を捻る。
甘いりんご飴を食べたら、今度はしょっぱいおかずや主食を食べたくなったのだけれど、こう選択肢が多いと目移りしてしまう。
「いっそ、全部買うか?」
「えっ、いいよいいよ、流石に悪いし!」
「いや、結局俺も食べるしな。二人分なら、色々買っても大丈夫だろう」
食べ盛りの高校生二人だ、この夜店の食べ物を端から買いあさっても食べきれるだろう。
けれど、基本的に費用は月代持ちのようなので、大丈夫だろうかと雪羽は眉を寄せる。
「気にするな、金なら充分ある」
「…ブルジョワめ」
「一応、“自分”で稼いだ金だ」
「えっ、そうなのか?」
ぱち、と瞳を瞬かせる。お坊ちゃんの“お小遣い”ではないのか。
訊き返すと、何でもないように月代が肩をすくめる。
「実家の仕事を手伝っているからな。その“バイト代”だ」
「そうなんだ…。…いいのか、せっかく働いて稼いだのに、俺なんかに奢って」
「俺の金を、どう使おうが俺の自由だろう」
くしゃ、と金魚を持っていない方の手で髪を撫でられ、雪羽はくすぐったさにはにかんだ。
「…ん、…ありがと、月代」
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