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ジプソフィラ
2

「またちょーだい、ユキ」
「別にいーけど。今日のは納豆入りだぞ?」
「納豆!?」


醤油を少量加え、その代わり塩は少なめに。気分により辛子も入れると、ピリッとした風味がなかなか美味しい。

…相模家では当たり前のメニューだったのだが、達也と、それから反対隣の玲も驚いた顔をしている。


「納豆なんて入ってるんだ?」
「なんだ、納豆嫌いか?」
「いや、別に嫌いじゃないけど…。初めて聞いた」
「美味いよ?」
「じゃあちょーだい!」
「はいはい」


再びハシャぎ出した達也を適当にあしらっていると、玲が此方をじっと見ている事に気付いた。


「何?」
「…ユキ、僕も欲しい」
「…どうぞ」


達也にいいと言って、玲に駄目とは言わない。だから別に、そんな物欲しそうな目でみる事もないだろう。

ボンボンのクセに、なんて全く関係ない事を雪羽が考えていると、一人で騒いでいた達也が急にピタリと立ち止まった。


「っと、どうした?」
「…達也?」


つられて雪羽と玲も足を止めたが、ここは中庭に面した渡り廊下のど真ん中。…つっ立っていては通行の邪魔になるし、腹も減ったから早く学食へ急ぎたいのだが。

雪羽が怪訝な顔で達也を見れば、喜怒哀楽の分かりやすい彼の瞳が好奇心に輝いているに気付いた。


「…おい?」
「…見ろよユキ、会長だ!」
「は?」
「…えっ、会長?」


如何にも野次馬的な調子で叫んだ達也に、雪羽は訳が分からず、玲は訳が分かったからこそ驚いて声を上げた。

達也は雪羽の腕を引っ張り、中庭を見下ろす渡り廊下の窓に手をかけた。


「ちょっ…達也、お前いきなりなんだよ!?」
「だって会長だぜ、会長! 滅多に授業出てこないから見られるだけで目の保養、ラッキーなんだぜ」
「はぁ?」


好奇心に目をキラキラと輝かせた達也は、流石有名ジャーナリストの息子というかなんというか。

但し、話の筋が全く見えない雪羽は首を傾げるしかない。


「達也、ユキは転校生だよ。会長の噂は知らない」


少し遅れて窓辺にやって来た玲が、一人テンションの上がった達也をたしなめた。

彼の言葉に我に返ったのか、達也はポンッと手を叩き、窓を開けて雪羽に外を示す。


「…あぁ、そっか。…んじゃユキ、アソコ見てみ、アレが会長」
「はぁ…」


達也に促されるまま、雪羽は中庭を見下ろした。彼の示す方向に、一人の長身の少年が立っている。


「須藤月代(すどう つきしろ)会長、今二年生で超美形だし家柄最上だし成績も運動神経もいいわだし、超人気があるんだよねぇ」
「へー…」


雪羽も視力はいい方なので、この距離でもその会長とやらの顔を確認出来た。

…確かに、美形だ。芸能人とかモデルとかやってても不思議じゃないくらいに。


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あきゅろす。
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