ジプソフィラ
2
* * *
人々の声、囃しの音。男子高校生二人が繋いだ手だなんて、誰も気が付かない。
「…雪羽、何が欲しいんだ?」
「え?」
不意に振り返った月代に訊かれ、雪羽はきょとりとブルーグレイを見張る。
「俺に何か奢れと言ったのは、お前だろ」
「あ…、ホントに買ってくれるの?」
自分で言った事とはいえ、ほぼ勢いで口から零したものだった為、別に本気にされなくとも構わなかったのだ。
周囲を見渡し、おずおずと月代を見上げる。
「…ごあめ」
「ん?」
「りんご飴、買って?」
奢ってもらう事に多少の気まずさを感じているのか、僅かに目を伏せ、月代の浴衣の袖を掴んでそう強請る雪羽に、思わず停止した。
…暫ししても月代からの返事がない事に、雪羽が不安げに顔を上げる。
「…やっぱ、駄目か?」
「……いや。分かった、りんご飴だな」
上目遣いに見上げてくる玻璃を見つめ返して、月代は頷いた。
ぱ、と曇らせた玻璃を輝かせ、雪羽が微笑む。
「…すみません、りんご飴を一つ」
「はいよっ」
「どうも……ほら、雪羽」
「あ、ありがと…」
すぐそこにあった出店でりんご飴を買い、雪羽に手渡すと、彼は僅かにはにかみながらお礼を言った。
鮮やかな赤色にかぷりと囓りつきつつ、手ぶらで歩く月代を見る。
「月代の分は?」
「そうだな、じゃあ一口貰ってもいいか?」
「…ん」
手にした囓りかけのりんご飴を、促されるまま月代の口元に持っていく。
小さく身を屈めて雪羽の手からりんご飴を囓った月代を見て、雪羽はふと我に返った。何気なく、自分はかなり恥ずかしい事をしたのではないか。
パッとにりんご飴を手元に戻し、彼から視線を逸らしてガジガジとそれを囓る。…頬はすっかり飴と同じ色だ。
それを見て、月代はクツクツと笑った。
「…雪羽」
「…あ?」
「他に何か欲しいものは?」
様々な出店を見渡しそう訊く月代に、雪羽はぱちりと瞳を瞬かせた。
「まだ何か買ってくれんの?」
「折角の祭りなら、楽しまないと損だろう」
そう雪羽に笑いかける表情は、よく見る色香を含んだそれではなく、年相応の少年らしいもので。
だから雪羽も、つられて無邪気に笑う。
「…じゃあ、折角だから射的とか金魚掬いとかやろうぜ。やった事ないだろ?」
「あぁ」
月代の手を引いて、近くに見えた金魚掬いの出店へ寄る。
お金を払った月代が受け取ったポイをしげしげと眺めているのを見て、くすりと笑う。
「使い方分かるか?」
「……これで金魚を掬う、のか?」
「そ、破れやすいから気を付けろよ」
雪羽はくるくると自分の分のポイを回しつつ、まずは月代の挑戦を見やる。
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