ジプソフィラ
4
(まさか、ゴミ屋敷状態とか? …いや、寧ろそれは逆に生活感があるか)
『雪羽?』
「…ん? あぁ、ごめん」
微妙に失礼な事を考えて黙り込んでいた雪羽は、月代の声に顔をあげた。
受話器を手のひらで包み込み、布団の上に寝転がる。
ぽふりと枕に頭を乗せると、物音で察したか月代が言った。
『…そう言えば、お前のベッドは寮の部屋にあるんじゃないのか?』
「そうだよ。だから今家では布団使ってる」
『その様子だと…、万年床だな』
「別にいいじゃん、休みの間だけなんだしさぁ」
他愛もない会話を交わしながら、雪羽は小さく笑った。
月代と寮にいると、大体はいきなり押し倒されたり、妙な雰囲気になってしまうのだが、電話ならばそんな心配もない。こうやって月代と他愛なく話せるのは、雪羽にとって何だか楽しくもあった。
『休みって言っても、あと一ヶ月はあるだろう?』
「ちゃんと干せる時とかは干してるよ。一ヶ月も放置じゃねぇっての」
『そうか』
クス、と笑う月代の声。淫靡な雰囲気ではなく、純粋に笑うその声に、今彼はどんな顔をしているのだろうかとふと思う。
…電話では、相手の顔を見て話せない。押し倒される心配も確かにないが、人と話す時は専ら目を見る雪羽にとっては、少し寂しくもあるところだ。
「…一ヶ月、か」
『何だ?』
呟いた声を、電波越しに拾われて首を振る。
何となく、…本当に何となくだが月代の顔を見て話したいと思った。
「…いや、別に。そいえばアンタ、仕事って休み中働きっ放しなの?」
『ん? …あぁ、一応盆は休めると思うが』
「ふぅん…」
『何だ、“お誘い”か?』
「ヘンな意味じゃなくてな」
わざとらしく声を溶かした月代に、動揺を押し込めるよう出来うる限り素っ気なくそう答える。
…やっぱり電話で良かった。瞬間的に朱に染まった顔を見られなくて済んだ。
「フツーに遊ばないか、って話」
『フツーに、な』
「…別に、忙しいならいいけど」
『そんな事は言っていないだろ。…逢いたいさ、お前に』
「ッ…!? ぅ…」
さらりとそんな事を言われてしまい、思わず言葉が詰まる。
取り繕う暇もなく、月代の笑い声。
「…からかうなよ」
『からかってなんかいない、本心だ』
「…ぅ、だからっ…」
『…で? 何処に遊びに行くって?』
詰まる雪羽の言葉を拾い、月代が訊いた。
雪羽は布団の上で意味もなく頭をぷるぷると振り、動揺を散らす。
「ウチの地元とかって…来れる?」
『…あぁ、確か第五中学の近くだったな』
「…ウン、何で知ってるかは敢えて聞かねえよ」
どうせ例によっての職権濫用だろう。…この男、個人情報保護って認識が完全に欠落している。
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