ジプソフィラ
3
「結構好き…なんだよな、かすみ草。…俺が好きなの知ってるから、母さんが買って飾ってくれたみたいだ」
いつの間にか机の上に飾られていたかすみ草だけの控えめなブーケに目を向けつつ、雪羽は言った。
これを眺めていれば、何となく心が安らぐような気がする。
『かすみ草…か』
月代の呟く声に、こくりと頷く。…が、電話越しに自分の姿が見える筈がないと口を開いた。
「うん。…月代は、花とかあんまり好きじゃないか?」
『嫌いではない。…お前が“好き”と言うなら、“好き”だな』
「ははっ、何だそれ」
微妙な物言いに、小さく笑う。
それではまるで、雪羽の好みに月代が合わせているみたいだ。
『お前が気に入るなら、寮の部屋にも飾ろうか』
「寮の部屋…、ってアンタの部屋の話じゃなくて、当たり前に俺の部屋の話なんだよな」
その提案自体は満更でもないながら、相変わらずな月代の調子についつい皮肉めいて返してしまう。
生徒会長である月代には、寮の最上階にある特別部屋が与えられている筈なのに。
雪羽の特待生部屋も一般生徒の部屋と比べれば随分広く特別らしいが、生徒会用のそれは桁が違うものであるらしい。
そう思って、雪羽は肩をすくめる。
『お前の好きな物なら、俺の部屋に飾ったって仕方ないだろう』
「あぁ…、まぁそれはそうだけど…。…てか、もしかして買って貰えるのか?」
『“俺の”その玻璃が輝くのならば、安い貢ぎ物だ』
からかうように言い、クスリと月代は笑い声を漏らした。
結局はこの“瞳”に行き着くのか、と思いつつ、雪羽は呟く。
「…まぁ、貰えるんなら嬉しいけど…」
寮部屋は転校して以降特に機会もなく、インテリアなどはあまり置いていない殺風景な感じだ。それでも花瓶や花を置いて置けば、それなりに見映えするだろう。
「…とりあえず、ありがと」
『まぁ、俺も使う部屋だしな』
「いや、てかホント何でアンタ、俺の部屋に当たり前に住んでんだよ」
結局は、今更なその疑問に行き着く訳で。
『お前の部屋の方が、生活感があって落ち着く』
「あ…そ。…まぁ、どうせ追い出しても無駄だし、他の奴らに知られない限りもういいけどさぁ…」
生活感がある、と言われても、雪羽の部屋は特別賑やかな訳でもないのに。
生徒会長という肩書きなのに、一体どんな部屋で生活していたのだか。
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