ジプソフィラ
12
「…そういえば」
「んー…?」
毛先で遊ぶ指使いに何となくうとうととし始めていると、月代がふと声を上げた。
浮遊する意識のまま、雪羽はのっそりと顔を上げる。
「夏休みはどうする予定だ?」
「なつやすみ…? あぁ」
半分意識がぼやけていた雪羽は一瞬きょとりとして訊き返したが、すぐに目を覚まし頷いた。
期末試験も終われば、もうすぐに夏休みだ。この時期の学生が振る話題として、何もおかしな事ではない。
「普通に実家帰るよ。…編入で両親もそれなりに心配してるだろうし」
月代の腕の中で居心地の良い場所を探し小さく身じろぎしながら、雪羽は答えた。
ゴールデンウイークを過ぎての編入だった為、今まで纏まった連休もなくなんだかんだ実家には帰れていなかった。
もちろん電話などで連絡を入れているが、元気な姿を見せてやりたい。
マイペースだが一人息子を心配してくれてはいるらしい両親を思いつつ、雪羽は顔を上に向けて月代と目を合わせた。
「…月代はどうするんだ?」
「…学院と実家とを、行ったり来たりするだろうな。生徒会の仕事もあるし、家の仕事もある」
一般的な学生とは少し違う答えに、雪羽はゆるりとブルーグレイを瞬かせた。
「ふーん…、やっぱ家の事もやったりするんだ?」
「あぁ。…でもまぁ、俺は本社の跡継ぎではないから、それ程多量の仕事が回ってくる訳ではないが」
「そうなの?」
「上に兄が二人いるからな。俺は支社を任せられる事になるだろう」
「…へぇ…。てかアンタ、“弟”だったんだ」
さらりと告げられた初めて知る事実に、雪羽はぱちりと目を見張った。
…改めて考えてみれば、雪羽は月代を取り巻く事情などはほとんど知らない。こうやって世間話のように話してくれるという事は、別に隠している訳ではないのだろうが。
雪羽がじっと月代を見つめていると、彼はクッと小さく声を漏らし笑った。
「…何だ、そんな目でじっと見て。…まだ足りなかったのか?」
「!? なっ、違げぇよ! …てか、勘弁しろ!!」
後半は低く甘く囁かれ、意味を察した雪羽は真っ赤になって叫んだ。
失神するまで何度も貪られもう躰はくたくただというのに、此処でうっかり「もう一回」なんて展開になっては堪らない。
雪羽は月代の腕の中から逃れようとばたばたと暴れ…、躰の痛みにすぐに力尽きた。
「…ぁ、ぅ…」
「…あまり暴れるとベッドから落ちるぞ」
「ぅ、もう…動きたくねぇよ」
鈍痛に撃沈した雪羽は、諦めたようにくったりと月代に躰を預けた。
そんな様に月代はまた笑い声を漏らし、その躰を抱き寄せる。
「おやすみ、雪羽」
「…おやすみ、月代…」
なんだかんだ言いつつ優しく温かい腕の中、雪羽はゆっくりと目を閉じた。
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