[携帯モード] [URL送信]

ジプソフィラ
日常を游ぐ

オルゴールのメロディがスピーカーから流れ出し、雪羽は教科書を閉じた。やたら優雅なこのメロディが、この学園ではチャイムの役割を果たすらしい。

最初に聞いた時は、チャイムだとは思わずに「えっ、誰かの着メロ?」などと思ってしまった雪羽だが、二週間聞き続ければまぁ慣れた。
号令に合わせて礼をし、当たり前のように授業の片付けを始める。

教科書とノートを鞄にしまい、昼休みだという事で弁当の包みを取り出せば、明るい声と共に肩に衝撃が走った。


「ユキー、メシ食いに行こうぜ〜!」
「…ユキは今日もお弁当?」


…時期外れの編入から二週間。微妙な時期だし金持ち学校の中に一人庶民だしと、友達が出来るだろうかと心配していたのだが、それを杞憂としてくれた友人たちだ。

挨拶代わりに雪羽の肩をどついてくれたのが、元気玉の藤間達也(とうま たつや)。窺うように雪羽の顔を覗き込んだのが、落ち着いた雰囲気の塚本玲(つかもと れい)。
二人とも時期外れの転入生である雪羽に声をかけ、仲間に引き込んでくれた愛すべき恩人である。

雪羽は達也に腕を引っ張られて席から立ち上がりながら、手にした包みを見つめる玲に答える。


「そ、弁当。…ココの学食美味いけどさぁ、毎食出せる値段じゃねぇもん」
「そう? 学食だけあってまぁまぁの値段じゃん?」
「黙れボンボン!」


きょとん、と答えた達也に、雪羽の鋭い声が飛ぶ。

転入初日、右も左も分からない雪羽を学食へ誘ってくれた二人に心を温めたのも束の間、ランチに三千円も四千円もかけるようなメニューに驚愕したものだ。

…普通、昼食に千円以上ってかけらんなくねぇ?、な雪羽にはなかなかカルチャーショックな出来事だった。

その日は転入記念として達也と玲が昼食を奢ってくれたが、まさか毎食たかる訳にもいかないし、けれど学食で食べるにはあまりにも値段が高いと、雪羽は自炊を選んで弁当を作ってきている。

しかし達也も玲も、その事がいまいち理解出来ていないようである。

…基本的に彼らは良い友人だと思うが、時折庶民と金持ちの価値観の溝を感じないでもない。


「…でも、毎回手料理って凄いと思うよ」
「手料理ってもなぁ…、精々玉子焼きとか炒めものくらいだぜ? 俺が作るの」


後は焼いたウィンナーや、出来合いの冷凍食品などだ。
ちなみに寮内のスーパーにはそんな物売っていないので、雪羽は特売日である水曜の放課後に学校近くのスーパーに通っている。

玲のフォローは嬉しいが、手料理という程の手間はかけていない。…別に、全く料理が作れない訳でもないのだが。

雪羽が首を捻っていれば、玲とは反対隣を歩く達也がこっちを覗き込んでくる。


「えー、でもこの前貰った玉子焼きスッゲー美味かったぜ?」
「そりゃどうも」


…まぁ、褒められて悪い気はしないけれど。


≪  ≫

3/88ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!