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ジプソフィラ
2

* * *



「おかえり」


無駄にハイテクなカードキーで鍵を開け、寮の部屋に入ると、ここ二週間程で聞き慣れてしまった声がした。

月代はソファーに優雅に足を組んで座り、最初から此処の屋主であるが如く寛いでいる。


「…ただいま。居たのか」
「あぁ、悪いか?」
「…別に」


ため息をつきながら、緩く首を振る。

不法侵入云々に関しては、もう諦めた。この男に何を言っても無駄だ。

月代は、雪羽の部屋に居る時は一日中居るし、居ない時は居ない。大抵気まぐれだが、三日のうち二日は居るので入り浸られている。
授業にはあまり出ていないらしいというのは、噂の通りだ。

もうその存在にも慣れたし、居るなら居るで構わない。
それに、一人部屋で寂しさを感じていた雪羽には、部屋を温めていてくれる人間がいるのは嬉しい事だった。…本人には絶対に言わないが。

ほとんど空に近い鞄を床に放ると、雑誌を捲るその背中を振り向く。


「月代、夕飯食ってく?」
「あぁ、…と言うか今日は泊まる」
「昨日も泊まっただろ、アンタ。…自分の部屋はどうしたんだよ」


昨日彼が泊まっていったせいで、自分は体調が芳しくない訳だが。

眉を寄せつつ訊くと、振り返った月代が肩をすくめた。


「帰ると色々と面倒だ。特待部屋も居心地は悪くないしな」
「…あっそ」


何が“色々”なのか、雪羽は敢えてスルーした。

一般遭遇率の低い生徒会長様には、“色々”と派手な噂が多いらしい。達也情報だが、彼の言うことならなんだかんだ信用度は高い。

生温い目で性格俺様な美形を見つめていると、月代はクッと低く喉を鳴らした。


「…見惚れるなら、もっと近くへ来い。俺もお前を近くで見たい」
「…見惚れてなんか、ないし」
「来い、雪羽」


からかうような言葉にそっぽを向けば、今度は傲慢な命令。

…アンタは何様だと思わないでもないが、そんな事は今更。
それに、雪羽には彼に従う理由がある。


「その瞳で、俺を見ろ」
「…うん、月代」


その言葉に逆らう事は、出来ないのだ。

何故ならこの瞳は彼のモノだから。彼が望むのなら、望むだけを差し出さなければいけない。

頷いた雪羽は、自分を呼ぶ月代の隣に膝を付いた。体格差のある彼を見上げるように覗く。


「…俺を見ろ、雪羽」


雪羽の淡いブルーグレイに、月代の深い夜が映り込む。

…雪羽にとっては、彼のこの深い色の方がずっと綺麗だ。


「見てるよ」
「そう、そのままだ…」


囁かれ、そっとその指先が雪羽の眦をなぞり出す。

睫毛の根元に触れる程際どい場所に触れる月代に、雪羽は微かに肩を揺らす。


「潰したり…しないよな」
「そんな訳あるか。…俺のモノなんだから」


彼のモノだからこそ、だ。今、その生殺与奪を握っているのは月代だ。


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