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ジプソフィラ
自然な不自然

「ユキ〜っ、テストどうだった〜?」
「──っ!?」


期末テスト最終日。ホームルーム終了と同時に背中にタックルをかけて来た達也に、油断しきっていた雪羽は思わずその場に崩れ落ちた。

…躰を支えるだけの、力が入らない。

普通にしていれば普通でいられるが、躰に負荷がかかると駄目なのだ。


「…って、ゴメン! 大丈夫!?」
「ユキ、体調悪い…?」


顔を歪ませてその場に崩れた雪羽に、ぶつかった達也、寄ってきた玲が心配そうに声をかけた。

何とか躰を起こした雪羽は、友人二人に取り繕うように笑う。


「大丈夫。…ちょっと、寝不足なだけだから」
「テスト勉強? 今日でもう終わりだし、今日はゆっくり休みなね…」


心配そうに顔を覗き込む玲に、曖昧に笑う。

…厳密には“そう”ではないのだが、まさかそんな事を友人二人に言える訳がない。


「勉強した、って事はテストはバッチリ?」


タックルした手前の罪悪感なのか何なのか、さりげなく雪羽を支えるような位置に立った達也が訊いた。

気遣いを有りがたく思いながらも、大丈夫だからと彼を制しながらまた曖昧に笑う。


「バッチリ…、かどうかは分からないけど、まぁボチボチかな。現国と英語は自信ある方」
「あー、俺英語は全然ダメだった〜。ライティングとか訳わかんねぇ」
「…今度ユキに教えて貰えば?」


笑いながら頭を掻く達也は、勉強全般あまり得意ではないらしい。玲は成績は良い方だが、教えるのは苦手だから二人で勉強していてもあまり捗らないそうだ。

今回の試験では三人で一緒に勉強する事はなかったが、次は勉強会でもしてみるのも良いかもしれない。


「…みんなでワイワイやる、ってのも悪くなさそうだよな」
「だろっ? ユキが一緒にいてくれんなら百人力だし!」
「…達也痛い」
「あはは、あんま買いかぶんないでくれよー」


雪羽の背を叩けない為か、反対隣の玲の背を叩く達也に笑う。

不満げな玲が意外にも鮮やかなフォームで達也に反撃を仕掛けるのを見て、雪羽はまた笑った。


「痛いんですけど、玲さん…」
「僕も痛かった」
「はい、ごめんなさい…」
「仲良いなぁ、お前ら」


お調子者の達也がしゅんとするのを見て、雪羽は微笑ましくなった。

…クラスでの友人たちとの時間は、いつも通りに楽しい。

そんな変わらない学校での日常と、あの日から変わってしまった部屋での日常に思いをはせ、雪羽は何となく空を見上げた。

夏の陽射しが、眩しい空だった。


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