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ジプソフィラ
4

「…綺麗なんかじゃ…ない」


苦々しく呟いて、唇を噛み締める。

雪羽のそんな様子に、月代は微かに眉を寄せた。


「…どうした」
「この色、綺麗なんかじゃない」


繰り返し呟いて、月代から視線をそらした。

…自分の色は、彼を映す事に値しない。

軽く顎を掴んでいる月代の手を振り払い、少しだけ彼と距離を取った。
身じろぎするとまだ躰が微かに軋み、顔をしかめる。


「…雪羽」


自分の手から離れた雪羽を敢えて追おうとはせず、月代はベッドの端に座り直した。

様子がおかしいと察しているのか、優しく落ち着いた声で名を呼ばれる。

雪羽は微かに唇を歪ませた。限りなく、自嘲めいて。


「…この色、何色に見える?」
「……、ブルーグレイだろう」


硝子の様な、淡い色合い。澄んだその瞳がただ、綺麗だと月代は感じていた。

けれど、雪羽はゆるゆると首を振る。


「…じゃ、日本色では?」
「…灰青…、青灰か?」
「青鈍(あおにび)、だよ」


ポツリと落とされた声は、先程まで動転して騒ぎ立てていた物と同じとはとても思えない色をしていた。

夜色を緩く瞬かせる月代とは対照的に、雪羽のブルーグレイ、青鈍の瞳は酷く冷めている。


「…昔は凶色だったんだってさ、この色」


凶色、即ちそれは喪服とする色だ。縁起の悪い、忌み色。

…その事を知ったのはほんの数年前であるけれど、その前から雪羽はこの瞳を好ましくは思えなかった。


「…お前は嫌いなのか、その色が」


絶妙のタイミングで、月代がそう言った。雪羽は歪に笑う。


「大衆に埋もれる様な見た目の中で、他には無いような色。……気持ち悪いだろ?」


気持ち悪い、そう思ったのは周囲の人間であり、そして何より自分自身。

何故自分だけ、“みんなと同じ”ではないのかと。


「…こんな“特別”、いらないんだ。凶色、忌み色、…気持ち悪い色」


呟いて、唇を強く噛んだ。

…だから、アンタも放っておいてよ。

雪羽が再び口を開く前に、顔を上げた月代の指先が、スッと口許をなぞった。
噛み締めた唇をほどくよう、そっと紅を辿る。


「…なら、その色は俺が貰う」
「…え?」
「お前はそれがいらないんだろう? なら、その瞳の色は俺が貰ってやる」


傲慢な夜色が閃く。その強い瞳の色に、雪羽はただ目を見張った。


「…どういう事?」
「雪羽の瞳を、お前が嫌っているモノを俺が貰う。…俺はその色を気に入ったんだ、どうせいらないと言うのなら構わないだろう?」


紅梅の唇を愉しげに歪めて笑う顔は、昨夜の強引な行為を彷彿とさせた。

目元を辿る指に、さっと頬が朱に染まる。


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