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ジプソフィラ
3

「…まぁ、それもそうだな。一つ目の質問、俺が此処に入ってこれた理由だが、生徒会長のカードキーは全寮室分のマスターキーになっているからだ」
「…はっ!? 何それ!」
「やむを得ぬ都合で生徒の部屋を開けたりする必要も出てくるかもしれないからな、権限として持っている」
「……今回はその『やむを得ぬ都合』な訳?」
「まさか」
「職権濫用じゃねぇかよっ!!」


あっさりと言った月代に、思わず叫ぶ。

プライバシーに関わる権限を持っているのなら、だからこそそれを濫用してはならない、筈だ。…少なくとも、そう認識している人物がその職に就かねばならない。

…誰だ、こんな男に権力を持たせた奴は。

雪羽が半目になって月代を見たが、全く意に介した様子のない彼は話を続ける。


「二つ目の質問なら、昨夜答えた筈だ。…それ以上の理由がないとも」
「…それが意味分かんないってんだよ」


欲しいから、と彼は昨夜そう答えた。雪羽も虚ろな意識の中で確かにそう聞いた。

…だからと言って、納得出来る答えではない。


「…何で、俺なんか…」


…アンタなら、男でも女でも、可愛い子だってよりどりみどりだろ? 敢えて、自分を選ぶ理由が分からない。

雪羽が握り締めた手元に視線を落としていると、きしりと小さくベッドが軋んだ。
顔を上げると、雪羽の躰の横に腕を突いた月代が此方を覗き込んでいる。


「…っ、何…」
「…敢えて理由を言うなら…」
「え?」
「…その、瞳だ」


覗き込む程近い月代が、驚いて目を見張る雪羽の目元に指の甲を添える。

慈しむような優しい触れ方につい昨夜の行為を思い出し、躰が震える。


「…その瞳の色。此処に、俺を映してみたいと思った」
「えっ…、ていうかどうしてこの色知って……」
「あの日目が合っただろう? 忘れたのか?」
「覚えてるけど…」


あれは、随分距離があった筈だ。雪羽の瞳は確かに人とは違う色合いをしているが、あの距離で目が合ったとしても普通はただの黒よりやや薄い灰色にしか見えないだろう。

雪羽がそう言うと、月代がゆるりと口の端を上げた。


「視力には自信がある。両目とも3.0だ」
「……アンタは野生児か……」


故郷のサバンナに帰れよ…、と思わず脱力。現代日本では有り得ないような類の自信だ。

ガクッと頭を下げた雪羽の顎を、形良い指が捕える。柔らかくも抗えない力で、顔が持ち上げられた。


「…俺を見ろ、雪羽」
「…ッ」
「その綺麗な色に、俺を映せ」


美しい造作に真っ直ぐに瞳を見つめられ、息が詰まる。投げ掛けられた言葉に、胸が締め付けられた。

同時に沸き上がるのは、黒い靄のような感情。


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あきゅろす。
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