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ジプソフィラ
2

雪羽の唇から呟かれた己の名に満足したか、月代は微かに唇を歪ませ笑い、ベッドから全身を起こした。

均衡の取れた美しい肢体がカーテン越しの朝陽の下で露になり、雪羽は思わず目線をそらす。
そんな初とも取れる反応に、月代はまた笑い声を漏らした。


「…今更だろう、昨日は散々……」
「っ、言うなっ!」


反射的に叫んだ雪羽に、また低い笑い声が返る。

笑う月代は、頬を真っ赤に染めた雪羽の頭をふわりと撫でた。


「…何か飲み物はあるか?」
「へ?」
「この部屋。…何も置いていないか?」
「え、…いや、ペットボトルのお茶とインスタントのコーヒーが…」


唐突な問いにきょとんと目を見張った雪羽は、今までの複雑な心境を忘れて思わず素で答えてしまう。

そんな様子を見て月代はまた小さく笑い、そっとベッドを下りた。


「…ならコーヒーでいいな。キッチンか?」
「…あぁ、うん、棚の中…」
「分かった」


雪羽が答えれば、月代は寝室の出口に足を向けた。…が、ふと気付いたように一度此方を振り返る。


「…おはよう、雪羽」
「…おはよ…月代…」


昨夜の様に揶揄混じり愉悦混じりの言い方ではなく、含みのないただの挨拶。

淡々とした、けれど美しい声。

ほとんど反射的に応えてしまった雪羽にまた笑みを向け、月代は今度こそ寝室を出て行った。

残された雪羽が暫し呆然としていたのは、言うまでもない。



* * *



「………で、何な訳?」
「ん?」


場所は未だ、ベッドの上。

あの後我に返って再び起き上がろうとしたのだが、雪羽の躰…特に腰と人には言えない場所が鈍くも強い痛みを訴え、ベッドから下りるどころか躰を起こす事さえままならなかったのだ。

仕方ないので今はとりあえず背の後ろに柔らかいクッションを積み、そこにもたれかかる様にして座っている。…普通に起き上がるよりは、負担の少ない体勢だ。

また体調の心配など未塵もなさそうな月代も、雪羽のベッドの端に腰掛けている。


「…何な訳、とは何だ?」


手づから淹れてきたインスタントコーヒーの入ったカップを優雅に傾け、月代が訊く。

これまた嫌味な程絵になる仕草に、雪羽は眉を寄せながら言った。


「…色々。何でアンタはココに入って来れたかとか、…何でアンタが俺を抱いたかとか、何でまだココにいるのかとか」
「“何で”、だらけだな」
「…俺にだって最低限状況を把握する権利くらいあるんじゃないか?」


ブラックのコーヒーを喉に通して、雪羽も少しは冷静になった。

昨日の行為については…、過ぎた事だからあまりなじっても仕方ないとして、でもせめて理由くらいは訊いても良いだろう。

雪羽がそう言うと、月代はまた様になる仕草で肩をすくめた。


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あきゅろす。
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