ジプソフィラ
9 ※
「なぁ、雪羽…?」
「あっ、あぁっ…!」
訊きながらも、下から突き上げられる動きは止まらない。
快楽を感じているのは、明白な自分の態度。
だからと言って、正直にそんな事を答えられる筈もない。
「あっ…やっ…」
「っ、雪羽…」
しがみついた彼の肩に縋り喘げば、快楽を堪える雄の低い声が耳元で響く。
…感じているのは、彼も同じ?
雪羽はふと思い、快楽に霞む視界で月代の顔を見つめた。
綺麗な造作の、彼の顔。意地悪な笑みを浮かべていたそれは、今はすっかり劣情を滲ませた男の表情を。
「ぁ、月代…」
掠れる声で、彼を呼ぶ。犯す動きを止めないままに、熱を宿した夜色が真っ直ぐに雪羽を射た。
熱に浮かされた頭が思うまま、喘ぎばかり溢す唇が動くままに、問う。
──貴方も、俺で……?
「…月代も…イイの…?」
「………」
一瞬の、間。絶えず自分を犯していた動きも、その瞬間だけ停止する。
虚を突かれたような月代の瞳の色が、ただ綺麗だった。
雪羽がぼんやりとその色に見惚れていたのも、刹那。胎内に埋められた熱が膨張したのを感じた瞬間、今までよりも更に激しい動きで奥を突き上げられた。
「! あっ、あぁっん!」
「…クッ、イイか? あぁ、そうだな、最高だ雪羽…」
「あっ、んやぁっ…!」
「…お前は、本当にイイよ…」
笑う、声。それは今まで聞いた物の中で一番悦しげで、…嬉々としていた。
「ひぁっ、あぁんっ!」
奥ばかり、イイトコロばかりを狙って、強く突き上げられる。容赦なく攻めたてられる。
雪羽は月代の背にしがみつき、近付いてくる絶頂感に耐えようと必死にその場所に爪を立てた。
「やっ、あんっ…もっ、ダメ…!」
「ん、そろそろイきそうなのか…?」
「あっ! そんなの、ダメ…だって…ぇ…!」
囁きながら、その口元は雪羽の耳元へ。
形良い紅梅の唇に耳柔を食まれ、雪羽はまた疳高い嬌声をあげた。
「……俺も、もう少しだから……」
「! あっ…!?」
からかうようなそれではなく、訴えるような低い声。彼の感じる快楽を伝えられ、心臓がドクリと跳ねた。
「…イこうか? 一緒に」
「…! 月代っ…」
気付かされる。この行為は、相手と快楽を交し合っているのだと。
自分が気持ちいい分だけ、相手もそれを感じている。
…何故だろう、その事実に堪らなく胸が満たされた気がした。
「あっ、あっ…!」
「雪羽…」
「んっ、やぁっ!」
囁かれながら、激しく突き上げられる。
導かれていく。絶頂へ。
「やっ、もうっ、もうダメっ…!」
「ん、俺も…」
「あっ、あぁ…!」
「…雪羽…」
「月代っ…!」
熱っぽく掠れた声で、呼ばれる。応えるように彼を呼んで、その背に爪を立てた。
一際激しく最奥を突き上げられた瞬間、視界が真っ白に染まる。
「っ、あぁぁ─────っ!!」
「…ぅ、くっ…!」
浮かされる灼熱から開放される、瞬間。
虚ろな意識の中認識出来たのは、最奥を濡らした彼の熱と何かを囁く紅梅の唇だった。
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