ジプソフィラ 5 ※ 眩む意識の中で縋るように手を伸ばせば、驚く程優しい力でその指先が包まれる。 「ぁ……」 見上げれば、穏やかながらも熱を宿した、昏い夜半の瞳。 囁かれる声は、掠れ甘い気がした。 「…続き、するぞ」 「つづき…?」 回らない頭で、考える。今まで自分がしていた事、今まで自分たちがしていた事。 ……鈍い回路が繋がった瞬間、ブルーグレイの双眸が見開いた。 「…えっ!? ちょっ、ダメっ、あぁっ…!?」 「…何だ、自分だけ気持ち良くなって終わりのつもりだったのか? 悪い子だな」 愉悦を含んだ、からかうような声。 気付くのが、遅かった。 それも、仕方ないのだろう。主導権は始めから月代にあったし、快楽に流された頭は何処かで其れを望んでいたのかもしれない。 …だから、些細な抵抗など無駄に終わる。 「やっ…! やだ、そんなトコ…」 「雪羽は感度がいい。心配しなくとも直ぐによくなるだろう」 月代の指が触れたのは、自分ですら触れた事のない躰の奥の奥。 そんな処に触れられるなど思ってもみなかった雪羽は必死に首を振ったが、羞恥を煽る言葉と共に一蹴されてしまう。 先程雪羽が放った欲の残滓を塗り込めるように、長細い指が後腔をなぞる。 「ふっ…うぅ…」 未知の感覚に、戸惑いと恐怖から震える声が出る。 それをそっと宥めるように降ってきた唇が、そっと雪羽のそれに触れた。 重ね合わせるだけの、子供じみた口付け。…今の状況と真逆なそれが、雪羽の恐怖を薄らがせてくれる。 「ん…」 この強引な行為に、全く不釣り合いな酷く優しい触れ方。…今この瞬間にも、その指先は雪羽の奥底を犯さんと蠢いているというのに。 それでも、この優しさに心が凪ぐ。 「っぁ…」 入り口を確かめるよう、なぞるように触れていた指が一本、中へ侵入り込んで来る。 …濡らされた入り口と指に其処は痛みを訴える事はなかったが、本来ならば有り得ない異物を埋め込んだ違和感は拭えない。 「ん、大丈夫だ…」 震えた躰を、慰めるよう降ってくる声と唇。 …最初から強引に奪われているのに、何故今になってこんなに優しいのだろう。 蕩けた思考では、そんな事は理解出来ない。只、目の前の存在に本能的に縋りつくだけ。 「月代…」 促された訳ではなく、自分からその名を呼んだ。なんとなく、そうすれば彼は自分を甘やかしてくれる気がして。 「雪羽」 そんな“気”の通り、月代は雪羽を呼んで、口付けと共に優しく額を撫でてくれた。 そっと、その手を捕える。指を絡ませて乱れたシーツの上へ下ろすと、クッと低く彼の喉が鳴った。 「…甘えたいのか?」 「んっ…、怖い…から」 後腔に埋まった指は、ゆるゆると具合を確かめるように動いている。 …その感触に呑まれるのが怖いから。別の、優しい感覚で埋めて欲しい。 霞んだ視界で見上げれば、月代はどこか満足気に笑っていた。 ≪ ≫ [戻る] |